・・・ 十三「上の鳥居の際へ一人出て来たのが、これを見るとつかつかと下りた、黒縮緬三ツ紋の羽織、仙台平の袴、黒羽二重の紋附を着て宗十郎頭巾を冠り、金銀を鏤めた大小、雪駄穿、白足袋で、色の白い好い男の、年若な武士で、大小・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・ 黒羽二重の紋服一かさね、それに袴と、それから別に絹の縞の着物が一かさね、少しも予期していないものだった。私は、呆然とした。ただその先輩から、結婚のしるしの盃をいただいて、そうして、そのまま嫁を連れて帰ろうと思っていたのだ。やがて、中畑・・・ 太宰治 「帰去来」
・・・僕はふいと床の間の方を見ると、一座は大抵縞物を着ているのに、黒羽二重の紋付と云う異様な出立をした長田秋濤君が床柱に倚り掛かって、下太りの血色の好い顔をして、自分の前に据わっている若い芸者と話をしていた。その芸者は少し体を屈めて据わって、沈ん・・・ 森鴎外 「百物語」
出典:青空文庫