・・・巻莨に点じて三分の一を吸うと、半三分の一を瞑目して黙想して過して、はっと心着いたように、火先を斜に目の前へ、ト翳しながら、熟と灰になるまで凝視めて、慌てて、ふッふッと吹落して、後を詰らなそうにポタリと棄てる……すぐその額を敲く。続いて頸窪を・・・ 泉鏡花 「革鞄の怪」
・・・画工 (茫然として黙想したるが、吐息して立ってこれを視おい、おい、それは何の唄だ。小児一 ああ、何の唄だか知らないけれどね、こうやって唄っていると、誰か一人踊出すんだよ。画工 踊る? 誰が踊る。小児二 誰が踊るって、この・・・ 泉鏡花 「紅玉」
・・・林の奥に座して四顧し、傾聴し、睇視し、黙想す」十一月四日――「天高く気澄む、夕暮に独り風吹く野に立てば、天外の富士近く、国境をめぐる連山地平線上に黒し。星光一点、暮色ようやく到り、林影ようやく遠し」同十八日――「月を蹈んで散歩す、青・・・ 国木田独歩 「武蔵野」
・・・わたくしは夕焼の雲を見たり、明月を賞したり、あるいはまた黙想に沈みながら漫歩するには、これほど好い道は他にない事を知った。それ以来下町へ用足しに出た帰りには、きまって深川の町はずれから砂町の新道路を歩くのである。 歩きながら或日ふと思出・・・ 永井荷風 「深川の散歩」
出典:青空文庫