・・・文人は文人同志で新思想の蒟蒻屋問答や点頭き合いをしているだけで、社会に対して新思想を鼓吹した事も挑戦した事も無い。今日のような思想上の戦国時代に在っては文人は常に社会に対する戦闘者でなければならぬが、内輪同士では年寄の愚痴のような繰言を陳べ・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・今なら文部省に睨まれ教育界から顰蹙される頗る放胆な自由恋愛説が官学の中から鼓吹され、当の文部大臣の家庭に三角恋愛の破綻を生じた如き、当時の欧化熱は今どころじゃなかった。 先年侯井上が薨去した時、侯の憶い出咄として新聞紙面を賑わしたのはこ・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・日本の娘たちはあまりに現実主義になるな、浪曼的な恋愛こそ青春の花であるというようなことを鼓吹するのだ。愛と情熱と自信とをもってすればできないことはない。現に私は学生時代に、修身教育しか知らなかった愛人を、ゴッホや、ベルグソンがわかり、ロダン・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・ 孟子の母の断機、三遷の話、源信僧都の母、ガンジーの母、ブースの母、アウガスチンの母、近くは高村光雲の母など、みな子どもを励まし、導いて、賢い、偉い人間になるように鼓吹した。それは動物的、本能的な愛からもっと高まって、精神的、霊的な段階・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・ プロレタリアートの戦争反対文学は、帝国主義××に反対すると共に、労働者階級の国際的団結の思想を鼓吹するものである。 二、プロレタリアートと戦争 一 プロレタリアートは、社会主義の勝利による階級社会・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
・・・この十年間に、文学運動の上では、言文一致の提唱とその勝利があったが、そしてそれは、より直接的に社会生活を反映し得る手段を整えたものと云い得るのだが、作品に於ては、現実は歪曲され、愛国主義は鼓吹された。自然主義運動勃興以前の各既成作家の行きづ・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・その結果は研究者の増加を促し翻っては一国の学術研究熱を鼓吹することになるであろう。これに反して、五年も十年も一生懸命骨を折って勉強をした人の、外目にはともかくも相当なコントリビューションにはなるであろうと思われるものが些細な欠点のために落第・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・熊本で漱石先生に手引きしてもらって以来俳句に凝って、上京後はおりおり根岸の子規庵をたずねたりしていたころであったから、自然にI商店の帳場に新俳句の創作熱を鼓吹したのかもしれない。当時いちばん若かったKちゃんが後年ひとかどの俳人になって、それ・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・とにかく児童には、知らないことが恥でない、疑いを起さないこと、またこれを起しても考えなかったり調べなかったりすることが大なる恥である、わるいことであるといった精神を充分鼓吹してほしいと思う。教師がこの態度になることの必要は申すまでもなかろう・・・ 寺田寅彦 「研究的態度の養成」
・・・この言葉の中には欧米学界の優越に対する正当なる認識と尊敬を含むと同時に、我国における独創的の研究の鼓吹、小成に安んぜんとする恐れのある少壮学者への警告を含んでいたのである。「どうも日本人はだめだ」と口癖のように言っていた、その言葉の裏にもや・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
出典:青空文庫