・・・河馬と言うものの特徴を見せるために、その前後並びに側面から見た形、眼、耳、鼻、口、尻尾、脚等の形態、水中にもぐって鼻づらだけ出した様子、鼻息で水を吹きとばす有様、水中で動くときに起る水の渦動、こういったようなものを十分に詳しく見せようと思っ・・・ 寺田寅彦 「教育映画について」
・・・画人ハ背景ヲ描カンガタメニ俳優ノ鼻息ヲ窺ヒ文士ハ書賈ノ前ニ膝ヲ屈シテ恬然タリ。余ヤ性狷介固陋世ニ処スルノ道ヲ知ラザルコト匹婦ヨリモ甚シ。今宵適カツフヱーノ女給仕人ノ中絃妓ノ後身アルヲ聞キ慨然トシテ悟ル所アリ。乃鉛筆ヲ嘗メテ備忘ノ記ヲ作リ以テ・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・要するに職業と名のつく以上は趣味でも徳義でも知識でもすべて一般社会が本尊になって自分はこの本尊の鼻息を伺って生活するのが自然の理である。 ただここにどうしても他人本位では成立たない職業があります。それは科学者哲学者もしくは芸術家のような・・・ 夏目漱石 「道楽と職業」
・・・孜々として鼻息をうかがっているものなのだそうであるが、リオンスはそういう皮肉そうな言葉づかいでとりもなおさず自身の事大主義的な性根を暴露しているのである。 そうかと思うと、勝野金政の小説がのっており、私はこの小説がどんな意企で、なんのた・・・ 宮本百合子 「近頃の話題」
・・・ 祖母さんは朝、目をさますと、先ず荒い鼻息を立てて顔を洗い、さて聖像の前に立った。猫背の背中を真直にし、頭をふりあげ、愛想よくカザンの聖母の丸い顔を眺めながら、彼女は大きく念を入れて十字を切り、熱心に囁くのであった。「いと栄えある聖・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ 大騒ぎだけして一時ケリがつくと、あなた自身上べだけゴマ化し様子を見ていると対手もその間は知らん顔をしているなどというのは、正直に云えば双方で鼻息をうかがう卑屈な態度だと思います。 『働く婦人』を手伝いたい・・・ 宮本百合子 「「我らの誌上相談」」
出典:青空文庫