・・・ 電車の中で考えたのは、あらましこんな事であったように思う。 とにかく結論としては何も得られなかった。 その後二三日してまた駿河台下を歩いた。その時には正午過ぎの「太陽」の強い光がくまなく降りそそいでいた。例の屋根の上に例の・・・ 寺田寅彦 「神田を散歩して」
・・・それで、多少でもまだ事実の記憶の消え残っている今のうちに、あらましのことだけをなるべくザハリッヒな覚え書きのような形で書き留めておくことにしようと思う。 欧州大戦の終末に近いある年のたぶん五月初めごろであったかと思う。ある朝当時自分の勤・・・ 寺田寅彦 「B教授の死」
・・・そして、作品の人物にあらわされている風俗のあらましは、古代のミニェチュアや文献をしらべてかかれた。 作者の作品の全系列に置いて、この作品を眺めると、作者の生活の時期との関係で、或る特徴をもっている。「古き小画」の作者は、この作品のかかれ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
・・・ルスタムとスーラーブの物語は昔のペルシア人が、云いつたえ語りつたえ、ミニェチュアにして描きつたえた物語だったことがわかり、同時に、その昔譚のあらましも知ることが出来た。 わたしは、小樽新聞の小説のことを思い出した。自分の生活や心の内の風・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
・・・ この、歴史的な起伏のあらましのうちに、私たちは、何か感じるものがありはしないだろうか。一部の人々によって批評されているように、連記制のおかげで女が得をした、珍しがられて得をした、というだけのことでもないと思えるし、同時に、数の多さは、・・・ 宮本百合子 「一票の教訓」
・・・火はあらまし消え、くすぶり、その辺はみじめな有様だ。「さあ、もうよさっせ、ええ物笑いだ」 勘助は、そういったきりだ。炉辺に坐りこみ、わが家にいるように、乱胸を片づけ出した。勇吉は、立ちはだかって、勘助を見ていたがやがて、「何でえ・・・ 宮本百合子 「田舎風なヒューモレスク」
・・・そのいきさつのあらましは、一九三二年の三月下旬「日本プロレタリア文化連盟」にたいする弾圧があった時代にさかのぼって話されなければなるまい。それまでは「コップ」や「ナップ」で公然と文筆活動をしていた小林多喜二、宮本顕治その他の人々が、一九三二・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・しかし、あなたの場合、いますぐ小説としてまとめられないとしても、さしあたっては、備忘録風なノートとしてでもいいから、書きたいと思っているいくつかの事件のあらましやエピソード、自分の心持などを書きとめておくことは大事です。時が経てば帰還後の生・・・ 宮本百合子 「結論をいそがないで」
・・・この間書いた手紙をよんでいらっしゃれば、私のかくもののこと、もうあらましのことは申上げたと思いますが、「小祝の一家」はいいところもあるが、今日読んでみると、全体のつかみかたが決して不正確ではないし、とり落してもいないが、まだもう一息つよくて・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・そのいりくんだ縦横のいきさつを明瞭に理解するために、私たちは一応過去にさかのぼって、この三四年来日本の文学が経て来た道のあらましを顧みることが便利であろうと思う。 既に知られているとおり、日本の一般的な社会情勢は昭和六年の秋、満州事変と・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
出典:青空文庫