・・・ こういうあらましのいきさつを経て、今日のわたしたちは、民主の日本を建設するという課題に当面しているのである。日本の社会がその半封建性とたたかう必然は、もう今日では万人の目にはっきり見えてきている。文学の領域でもそれは当然明瞭なわけなの・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・それらのあらましが究明されなければなるまいと思うのである。 アンドレ・ジイドはゴーリキイの誕生におくれること一歳、ロマン・ロオランより三つの年下として一八六九年、パリに生れた。両親は富裕な清教徒であった。十一歳で父に死別した後、病弱な神・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・ 私には写真のあらましも想像のつくことであったし、そういう特殊な役目のひとにはそれまで厄介になっていず、そういうことまでして、文章の方により活々と描かれている風景の小写真を貰うのが気億劫であった。友達のこまかい親切の一部がそうやって途中・・・ 宮本百合子 「写真」
・・・ ごくあらましな以上の観察によっても昭和十年、十一年頃に於ける文学が面していた矛盾困難と混乱の有様は十分理解することが出来る。 広津和郎がこの時代的な文学の紛糾摸索に対して「散文精神」を唱えたことも興味がある。「新しい散文精神は現実・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・そうだとすれば、人情風俗のあらましを、よしやそのはしりのところでつかまえて作品に料って見ても、求める何かはみたされない。野望ある作家が、現実に対する自分のある態度を強烈な線で描き出しても、やはり渇いた心は、それではないものを、と求めて叫ぶで・・・ 宮本百合子 「人生の共感」
・・・この課題について、わたしは自分として一定の見解を主張するというよりは、むしろ、みんなの手近にある『新日本文学』『文学サークル』『勤労者文学』などを見直して、そこからひき出されて来る具体的な論点をあらまし整理し、発展させてみる方が、実際的だと・・・ 宮本百合子 「その柵は必要か」
・・・それに、現代文学の現実のなかではあらましに、婦人作家と総括は出来ず、婦人作家の中にも、社会的な芸術の素質でそれぞれこまかい相異がある。女というひと色で云えないことは、男の作家を男というひといろで云えないと全く同じことだと思う。未だ婦人作家と・・・ 宮本百合子 「地の塩文学の塩」
・・・裏の航路図に、インクであらましの船位がしるしてある。 書簡註。一九二九年の一家総出のヨーロッパ旅行は、父の経済力にとって、又母の体力にとって、超常識な決断であった。父は、母を海外へつれてゆくについて、万一の場合、子供ら・・・ 宮本百合子 「中條精一郎の「家信抄」まえがきおよび註」
・・・ 二三日の間は、家内の片づけにせわしないと見えてバタバタと朝早くからその奥さんも働いて居たが、あらまし目鼻がつくと、小さい子供を膝に乗せて、投げ座りのまんま舟を漕いで居る様子などが、まばらな松の葉の間から、手に取る様に見えた。「・・・ 宮本百合子 「二十三番地」
・・・僕だって別に研究したのではありませんが、近代思想の支流ですから、あらまし知っています。五十年余り前に死んだ Max Stirner が極端な個人主義を立てたのが端緒になっていると、一般に認められているようです。次は四十年余り前に死んだ P・・・ 森鴎外 「食堂」
出典:青空文庫