・・・ オオドゥウは中部フランスの寒村に生れた孤児であった。育児院で育てられて、十三歳からノロオニュの農家の雇娘で羊飼いをした。巴里へ出てからは十九歳の裁縫女として十二時間労働をし、そのひどい生活からやがて眼を悪くして後、彼女は自家で生計のた・・・ 宮本百合子 「知性の開眼」
・・・そして本当に自由な人間としての創造的能力の大部分を、巧みで無邪気でしかも自然の悪計に満ちた女性と、彼女の営む家庭、育児室のために浪費させられると考えた。一九〇三年にバーナード・ショウの書いた「人と超人」はそういう思想に立っている。日本でも初・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・はくらべものにならない複雑さと大きさで、じかに政府のやりかたとくみうちして生きていかなければならなくなってきている農村のきょうの実状の中では、農村の主婦、母、未亡人たちすべてが、ただ黙々と野良、家事、育児と三重の辛苦を負うて目先の働きに追わ・・・ 宮本百合子 「願いは一つにまとめて」
・・・女が子を持てなければ去るべし、といいながら、女の妊娠期間への注意、分娩や育児への忠言は与えず、「古の法にも女子を産ば三日床の下に臥さしむと云えり」という風である。 益軒の時代は、さっき触れたような商人擡頭の時代であって、歌舞、音曲、芝居・・・ 宮本百合子 「三つの「女大学」」
・・・子煩悩な両親と一人息子の生活は、作者の根気よい筆で、子供の探求心の問題、性教育の問題にまで殆ど育児教科書のように触れて行っている。 今や允男は、青年となった。允男を高等二年生にした二十年の歳月は、公荘と允子との生活をもいつしかかえ、彼等・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
常識を働かせ、実際的な立場から考えると、性、育児教育等に関するよい書物も必要でしょう。私には一々指名出来ません。心の上から行くと頭に浮ぶだけでも、夏目漱石の「行人」「それから」「門」ツルゲーネフの「その前夜」「処女地」ロマ・・・ 宮本百合子 「嫁入前の現代女性に是非読んで貰いたい書籍」
・・・現在は、菊池寛氏のように恋愛を広義の遊蕩、彼のいわゆる男の生物的多妻主義の実行場面と見、結婚を市民的常識にうけいれられた生殖の場面、育児の巣と二元的に考える中年の重役的認識と、恋愛は楽しくロマンティックで奔放で、結婚は人生の事務であると打算・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
・・・「それでは僕のかく画には怪物が隠れているから好い。君の書く歴史には怪物が現れて来るからいけないと云うのだね。」「まあ、そうだ。」「意気地がないねえ。現れたら、どうなるのだ。」「危険思想だと云われる。それも世間がかれこれ云うだ・・・ 森鴎外 「かのように」
出典:青空文庫