・・・ そこまで考えるわけではなく、ただ品のよい稽古事というのであれば、やはりそこに私たちの生ける文化への感情として考えさせられる点が在る。何故なら、それらの若い娘さんたちは、働く健気な婦人たちだのに、まだその働きの性質が自分の肉体に強いてい・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・これらの声々は、ある点から見ればまことに悲痛な、今日の日本の文学における生ける人間の存在の消失に伴うつむじ風の唸りであり、作家と歴史とのめぐり合わせにおいてみれば「個人生活における一貫性」が砕けゆく過程の叫びであった。『現代文学論』の第・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
・・・ プロレタリア文学の新しい民主主義文学との生けるつながりが明らかとなるにつれ、新しい民主主義がすでにその前脚をかけている社会主義への道が明らかとなった。わたしたちの今日の創作方法として、いきなり社会主義的リアリズムだけをとりたてることは・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・ こう考えて来ると、すべての作家たちは、これらの課題がつまりは全く根本的な文学そのものの生ける課題であって、その達成をめざして、めいめいにこれ迄も努力し、或は迷って来てもいたのだと思うしかないのだろうと思う。 国民の文学と呼ぶに足る・・・ 宮本百合子 「実感への求め」
・・・一年つづくか二年つづくか当のつかない失業の間を、笑って暮していけるだけ、あなたの旦那さんは金持ちの方でしょうか。 若し、クビにされる心配は重役だからない。病気で半年休んでもおっかないことはない。クビにするならしろ、笑顔でクビにされてやる・・・ 宮本百合子 「「我らの誌上相談」」
・・・ 汝や自分の棟の下で飯が食っていけるのは、誰のお蔭やと思うてる。此のしぶったれの伯母が有ってこそやぞ。それも知りさらさんとからに、渋ったれ渋ったれって一寸は人の恩も考えてから云いや!」「ぬかしてよ! 俺とこが恩受けてるのは、手前とこの親・・・ 横光利一 「南北」
・・・万物の造り主である活ける神は、人の工と巧とをもって石から造られる神とは違う。それは手で造った殿堂に住まない。また人の手で犠牲をささげられることを要せない。それは生命の根拠である。人間の造り主である。何で人間の手を借りる必要があるだろう。諸君・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
・・・人形に動作を与え、そうして生ける人よりも一層よく生きた感じを作り出すためには、人間の動作の中からきわめて特徴的なものを選び取らなくてはならなかった。いかに人形使いの手先が器用であるからといって、人形に無限に多様な動きを与えることはできない。・・・ 和辻哲郎 「文楽座の人形芝居」
出典:青空文庫