・・・てめえも熊に生れたが因果ならおれもこんな商売が因果だ。やい。この次には熊なんぞに生れなよ」 そのときは犬もすっかりしょげかえって眼を細くして座っていた。 何せこの犬ばかりは小十郎が四十の夏うち中みんな赤痢にかかってとうとう小十郎の息・・・ 宮沢賢治 「なめとこ山の熊」
・・・頁から頁へと一つの印画から一つの印画へとそこに描こうとされた生活の各断面が十分の量感をもって展開されていて、そこからたちのぼって来る生活の息づきに、心持よく顔をふかれるような感じをうけた。 夏の或る日、畳まった町の屋根屋根を越してずーっ・・・ 宮本百合子 「ヴォルフの世界」
・・・すべてこれ優等児製造はかくの如き文化性から生み出されるかという印象を与える雰囲気、画面の所謂芸術写真風な印画美であるが、私たち数人の観衆はこの文化映画として紹介されているもののつめたさに対して何か人間としてのむしゃくしゃが胸底に湧くのを禁じ・・・ 宮本百合子 「映画の語る現実」
・・・と云う因果な病にかかった事を辛がった。道を歩くにもすかしすかししなければ行かれないほどになってからは、自分でも驚くほど、甲斐性がなくなり、絶えず、眼の前に自分をおびやかす何物かが迫って居る様に感じだした。 物におどおどし、恥しいほど決断・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・逃げ様としてもにげられない因果だと二人は暗い気持になって一家の運命と云う言葉におびえて居た。この家をもう幾十年かの間つづかせると云う事はいくらのぞんでも出来ない事だと親達はあきらめた。力ない目で凄く凄くとなって行く娘をふるえながら見て居るよ・・・ 宮本百合子 「お女郎蜘蛛」
・・・そこがカチリと印画になって納められているのである。女史はそのまま諷刺画ともなるこの自身の写真を如何なる感想で見られたであろうか。更に、ともかく無産政党に属して一旗あげんとした良人宮崎龍介氏は、それを如何に見たであろうか。「女には全く用の・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
出典:青空文庫