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・・・「いやよ、何云ってるのさ」「だって、バスにのっているすぐとなりの男のひとが、ほらあれって云ってるんだもの」「見たの?」「ううん、こんでいてそっちは見えなかった。フフフフ」 私があんまり丸まっちいので、いくらか丸い、或は相・・・
宮本百合子
「似たひと」
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・・・女房があとからそっとはいって枕を出して当てさせたとき、長十郎は「ううん」とうなって寝返りをしただけで、また鼾をかき続けている。女房はじっと夫の顔を見ていたが、たちまちあわてたように起って部屋へ往った。泣いてはならぬと思ったのである。 家・・・
森鴎外
「阿部一族」