・・・ おじいさんや、おばあさんは、「うちの娘は、内気で恥ずかしがりやだから、人さまの前には出ないのです。」といっていました。 奥の間でおじいさんは、せっせとろうそくを造っていました。娘は、自分の思いつきで、きれいな絵を描いたら、みん・・・ 小川未明 「赤いろうそくと人魚」
・・・ ここに、また二人の娘があって、一人の娘は、内気で思ったことも、口に出していわず、悲しいときも、目にいっぱい涙をためて、うつむいているというふうでありましたから、心で慕っていた若者のいうことは、なんでもきいたのであります。「その指に・・・ 小川未明 「海のまぼろし」
・・・ 元来内気なこの娘は、人々がまわりにたくさん集まって、みんなが目を自分の上に向けていると思うと恥ずかしくて、しぜん唄の声も滅入るように低くはなりましたけれど、そのとき、弟の吹く笛の音に耳を傾けると、もう、自分は、広い、広い、花の咲き乱れ・・・ 小川未明 「港に着いた黒んぼ」
・・・豹一の眼が絶えず敏感に動いていることや、理由もなくぱッと赧くなることから押して、いくら傲慢を装っても、もともと内気な少年なんだと見抜いていたのだ。文学趣味のある彼女は豹一の真赤に染められた頬を見て、この少年は私の反撥心を憎悪に進む一歩手前で・・・ 織田作之助 「雨」
・・・通訳は、内気な初心い男だった。彼はいい百姓が住んどるんです、とはっきり、云い切ることが出来なかった。大隊長は、ここがユフカで、過激派がいることだけを耳にとめた。それ以外、彼れにとって必要でない説明は一切、きき流してしまった。 過激派討伐・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・小村は内気で、他人から云われたことは、きっとするが、物事を積極的にやって行くたちではなかった。吉田は出しゃばりだった。だが人がよかったので、自分が出しゃばって物事に容喙して、結局は、自分がそれを引き受けてせねばならぬことになってしまっていた・・・ 黒島伝治 「雪のシベリア」
・・・W君も、内気なお人らしいから、私同様、外へ出て遊ぶことは、あまり無かったのではあるまいか。そのとき、たったいちどだけ、私はW君を見掛けて、それが二十年後のいまになっても、まるで、ちゃんと天然色写真にとって置いたみたいに、映像がぼやけずに胸に・・・ 太宰治 「酒ぎらい」
・・・ああ、しかし、そんな内気な臆病者こそ、恐ろしい犯罪者になれるのだった。 二 私が二十歳になったとしの正月、東京から汽車で三時間ほどして行ける或る海岸の温泉地へ遊びに出かけた。私の家は、日本橋呉服問屋であって、い・・・ 太宰治 「断崖の錯覚」
・・・むしろ、内気な、つつましい動物である。狐が化けるなどは、狐にとって、とんでも無い冤罪であろうと思う。もし化け得るものならば何もあんな、せま苦しい檻の中で、みっともなくうろうろして暮している必要はない。とかげにでも化けてするりと檻から脱け出ら・・・ 太宰治 「女人訓戒」
・・・十六の、内気な妹と二人暮しだ。この妹は、村の或る律気な一牧人を、近々、花婿として迎える事になっていた。結婚式も間近かなのである。メロスは、それゆえ、花嫁の衣裳やら祝宴の御馳走やらを買いに、はるばる市にやって来たのだ。先ず、その品々を買い集め・・・ 太宰治 「走れメロス」
出典:青空文庫