・・・うう、うふふ、蛇も踊るや。――藪の穴から狐も覗いて――あはは、石投魚も、ぬさりと立った。」 わっと、けたたましく絶叫して、石段の麓を、右往左往に、人数は五六十、飛んだろう。 赤沼の三郎は、手をついた――もうこうまいる、姫神様。……・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・「餓鬼め。」 と投げた。「うふ、うふ、うふ。」と平四郎の忍び笑が、歯茎を洩れて声に出る。「うふふ、うふふ、うふふふふふ。」「何じゃい。」と片手に猪口を取りながら、黒天鵝絨の蒲団の上に、萩、菖蒲、桜、牡丹の合戦を、どろんと・・・ 泉鏡花 「売色鴨南蛮」
・・・「……もしもし、放送局ですか。実は今放送しておられる杉山節子さんに急用なんですが、電話口へ呼んで下さいませんか」「うふふ……」 交換手は笑って、「放送中の人を、電話口に呼べませんよ」「あッ、なるほど、こりゃうっかりしてま・・・ 織田作之助 「昨日・今日・明日」
・・・ 私のあわてて騒ぐ様子が、よっぽど滑稽なものだったと見えて、嫁は、膝の上の縫い物をわきにのけ、顔を膝に押しつけるようにして、うふふふと笑い咽んでしまいました。しばらくして顔を挙げ、笑いをこらえているように、下唇を噛んで、ぽっと湯上りくら・・・ 太宰治 「嘘」
・・・いまでも手紙を寄こすのだよ。うふふ。こないだも、餅を送ってよこした。女は、馬鹿なものだよ、まったく。女に惚れられようとしたら、顔でも駄目だ、金でも駄目だ、気持だよ、心だよ。じっさい俺も東京時代は、あばれたものだ。考えてみると、あの頃は無論お・・・ 太宰治 「親友交歓」
・・・おのれの意志では、みじんも動けぬ。うふふ、死骸じゃよ。底のない墜落、無間奈落を知って居るか、加速度、加速度、流星と同じくらいのはやさで、落下しながらも、少年は背丈のび、暗黒の洞穴、どんどん落下しながら手さぐりの恋をして、落下の中途にて分娩、・・・ 太宰治 「創生記」
・・・そう言われて私もまんざらでなく、うふふと笑ってやにさがり、いもの天ぷらを頬張ったら、私の女が、お前、百姓の子だね、と冷く言います。ぎょっとして、あわてて精進揚げを呑みくだし、うむ、と首肯くと、その女は、連れの職工のおいらんのほうを向いて小声・・・ 太宰治 「男女同権」
出典:青空文庫