・・・ 日本の憲法の精神は、永世中立でなければ実現できないのは実際である。一家が詐欺にかかりそうになったとき、それをふせいだ母の機転、娘のかしこさがほめられるなら、人民全体の未来が国際的なおそろしい私慾の鍋にうちこまれようとするとき、それをふ・・・ 宮本百合子 「しようがない、だろうか?」
・・・若しわが献げられた身を神がよみし給うなら寂漠の瞬間冲る香煙の頂を美しい衛星に飾られた一つの星まで のぼらせ給え。燦らんとした天の耀きはわが 一筋の思 薄き紫の煙を徹してあわれ、わたしの心を盪かせよう ・・・ 宮本百合子 「初夏(一九二二年)」
・・・「日本の心ある知識階級は、日本の永世中立をのぞんでいる。武装せざる国家、永久平和の国家となることをのぞんでいる。」「しかし葦沢悠平は空想家ではなかった。戦いに敗れ、戦争がいやになったからと言って、それで永世中立ができるものなら、何の苦労もい・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・何事かと聞けば、衛生と虎列拉との事なり。衛生とは人の命延ぶる学なり、人の命長ければ、人口殖えて食足らず、社会のためには利あるべくもあらず。かつ衛生の業盛になれば、病人あらずなるべきに、医のこれを唱うるは過てり云々。これ等の論、地下のスペンサ・・・ 森鴎外 「みちの記」
・・・パウロはますます熱して永生の存在を立証する彼自身の体験について語り始める。物見高いアテネ人は――「ただ新しきことを告げあるいは聞くことにのみその日を送れる」アテネ人は、また一つの新しい神が輸入せられそうになったことに非常な興味を起こして、ア・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
・・・しかしたぶん自分は永生きするだろう。」こういう思いが私から死に対する痛切な感じを奪っている。あたかも「死」という運命が自分の上にはかかっていないかのように。結局私は「死」に対して何の準備も覚悟もできていない。「死」をほんとうにまじめに考える・・・ 和辻哲郎 「停車場で感じたこと」
出典:青空文庫