・・・第一の精霊 女子のかたくななのは興のさめるものじゃ、良い子じゃ聞き分けて休んでお出でなされ。精女 まことに――我がままで相すみませんでございますけれ共お主様に捧げました体でございますから自分の用でひまをつぶす事は気がとがめますで・・・ 宮本百合子 「葦笛(一幕)」
・・・京漢鉄道総工会の成立大会を武力解散させた軍閥呉佩孚に対して中国労働者がジェネストを起し、英国の労働運動に一つのエポックをつくった。今日三百万の党員をもち中国人口の三五パーセントを解放地区に包括しつつある中共は、一九二三年に第三次党大会をもち・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第二巻)」
・・・弟には忠利が三斎の三男に生まれたので、四男中務大輔立孝、五男刑部興孝、六男長岡式部寄之の三人がある。妹には稲葉一通に嫁した多羅姫、烏丸中納言光賢に嫁した万姫がある。この万姫の腹に生まれた禰々姫が忠利の嫡子光尚の奥方になって来るのである。目上・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・もう起こしてやってはどうじゃろうの」「ほんにそうでござります。あまり遅くなりません方が」よめはこう言って、すぐに起って夫を起しに往った。 夫の居間に来た女房は、さきに枕をさせたときと同じように、またじっと夫の顔を見ていた。死なせに起・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・そこでわたくしは非常に反抗心を起したのです。どうにかして本当の好男子になろうとしたのですね。 女。それはわたくしに分かっていましたの。 男。夜寝られないと、わたくしは夜どおしこんな事を思っていました。あんな亭主を持っているあなたがわ・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「最終の午後」
・・・ 灸は早く女の子を起したかった。彼は子供を遊ばすことが何よりも上手であった。彼はいつも子供の宿ったときに限ってするように、また今日も五号の部屋の前を往ったり来たりし始めた。次には小さな声で歌を唄った。暫くして、彼はソッと部屋の中を覗くと・・・ 横光利一 「赤い着物」
・・・だから五年後に家康が政権を握ったときには、彼は、秀吉が征明の役を起こした時と同じ年齢であったが、秀吉とは全然逆に、学問の奨励をもっておのれの時代を始めたのである。慶長四年の『孔子家語』、『六韜三略』の印行を初めとして、その後連年、『貞観政要・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・幾千万の心霊を清きに救いその霊の住み家たる肉体を汚れより導き出すために誠心の興奮は吾人の肉骸を犠牲に供す。「愛国心」はこの見地に立つ。「愛国心」は変体して忠君となった。 忠君の血を灑ぎ愛国の血を流したる旅順には凶変を象どる烏の群れが骸骨・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫