・・・「越後獅子は誰が踊るのや」「長三郎に魁車がつきあうのやけれど、すいた水仙のところなんか、何だか変なもんや。私いくつ時分だったか、一本歯をはいて、ここの板敷を毎日毎日布を晒らしてあるいていたもんや」お絹はそう言って、銚子にごぽごぽ酒を・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・雀百まで躍るとかいう諺も思合されて笑うべきかぎりである。 かつて東京にいたころ、市内の細流溝渠について知るところの多かったのも、けだしこの習癖のためであろう。これを例すれば植物園門前の細流を見てその源を巣鴨に探り、関口の滝を見ては遠きを・・・ 永井荷風 「葛飾土産」
・・・ ジャズを踊る踊子は戦争前には腰と乳房とを隠していたのであるが、モデルが出るようになってから、それも出来得るかぎり隠す部分の少いように仕立てたものを附けるので、後や横を向いた時には真裸体のように見えることがある。昨年正月から二月を過ぎ三・・・ 永井荷風 「裸体談義」
・・・ よそよそしくは答えたれ、心はその人の名を聞きてさえ躍るを。話しの種の思う坪に生えたるを、寒き息にて吹き枯らすは口惜し。ギニヴィアはまた口を開く。「後れて行くものは後れて帰る掟か」といい添えて片頬に笑う。女の笑うときは危うい。「・・・ 夏目漱石 「薤露行」
・・・並ぶ轡の間から鼻嵐が立って、二つの甲が、月下に躍る細鱗の如く秋の日を射返す。「飛ばせ」とシーワルドが踵を半ば馬の太腹に蹴込む。二人の頭の上に長く挿したる真白な毛が烈しく風を受けて、振り落さるるまでに靡く。夜鴉の城壁を斜めに見て、小高き丘に飛・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・津軽海峡、トラピスト、函館、五稜郭、えぞ富士、白樺、小樽、札幌の大学、麦酒会社、博物館、デンマーク人の農場、苫小牧、白老のアイヌ部落、室蘭、ああ僕は数えただけで胸が踊る。五時間目には菊池先生がうちへ宛てた手紙を渡して、またいろいろ話され・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
・・・ うずのしゅげは光ってまるで踊るようにふらふらして叫びました。「さよなら、ひばりさん、さよなら、みなさん。お日さん、ありがとうございました」 そしてちょうど星が砕けて散るときのように、からだがばらばらになって一本ずつの銀毛はまっ・・・ 宮沢賢治 「おきなぐさ」
・・・嘉助はまるで手をたたいて机の中で踊るようにしましたので、大きなほうの子どもらはどっと笑いましたが、下の子どもらは何かこわいというふうにしいんとして三郎のほうを見ていたのです。 先生はまた言いました。「きょうはみなさんは通信簿と宿題を・・・ 宮沢賢治 「風の又三郎」
・・・華の花のように波に浮んでいるのも見たし、また沢山のジャンクの黄いろの帆や白く塗られた蒸気船の舷を通ったりなんかして昨日の気象台に通りかかると僕はもう遠くからあの風力計のくるくるくるくる廻るのを見て胸が踊るんだ。すっとかけぬけただろう。レコー・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・猟をするか踊るかしてるんですよ。」青年はいまどこに居るか忘れたという風にポケットに手を入れて立ちながら云いました。 まったくインデアンは半分は踊っているようでした。第一かけるにしても足のふみようがもっと経済もとれ本気にもなれそうでした。・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
出典:青空文庫