・・・ソヴェト同盟は新しい社会的土台において諸芸術をめざましく開花させたが、各部門の発達のテンポを見ると、文学、演劇が一番早くある水準に達した。音楽、美術はそれよりおくれたという実際の経験がある。騒音の激しい、人のざわめき、声々の多い場所で働いて・・・ 宮本百合子 「芸術が必要とする科学」
・・・それを発展させ、開花させ人類のよろこびのために負うている一つの義務として、個人の才能を理解したループ祖父さんの雄勁な気魄は、その言葉でケーテを旧来の家庭婦人としての習俗の圧力から護ったばかりでなく、気力そのものとして孫娘につたえた。多難で煩・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・その日本の感性的な知性が西欧のルネッサンスおよびそれ以後の人間開花の美に驚異したのが「白樺」の基調であった。 繋がれているものにとって、翔ぶという思いの切なさは、いかばかりだろう。低くあらしめられて、思いの鬱屈している精神にとって、高ま・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・ 女将が階下へ下りかける、階子口ですれ違いに、「ゲンコツぁん、お居やすか」「まだ寝んねおしいしまへんのん」 桃龍と里栄が入って来た。里栄は、都踊りへ出たままの顔と髪で、「おおしんど!」 直ぐそこにある茶を注いで飲んだ・・・ 宮本百合子 「高台寺」
・・・ 今、国男たちが、階下の食堂で盛に家のプランについて喋っている声がする。この家は御承知の通りダラダラと大きくて生活に不便であるので、この連中は小ぢんまりとしたものをこしらえ直して暮そうという計画なのです。 私が病院から帰って来た時分・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・個人主義の開花時代の近代ヨーロッパの文学精神を、日本で窒息させられていた「自我」「主体」の確立の主張の上に絵どる段階から成長して来て、日本の社会現実のうちで自我を存在させ発展させるそのことのためにも、日本ではすべての市民に共通な基本的な人権・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ そして、このような成長も、考えてみれば、つづまるところ婦人の文化資質のより高い、より多面な開花にまたなければならないということを、意味ふかく感じる。 宮本百合子 「子供のためには」
・・・ 女として自分のうちに開花させられた世界にひたったスーザンのある期間の生活は、クリスマスに久しぶりで田舎の生家へかえったとき非常に微妙な機会をえて一つの展開を見ることとなった。彼女の奏するピアノをきいて、スーの父親である老教授は、かすか・・・ 宮本百合子 「『この心の誇り』」
・・・ 周知の如く近代国家としての日本は独特な発展の過程をとり所謂開化期の文化の自由民権的傾向というものは明治二十三年国会が開かれると同時に一種の反動期に入り、今日とはその質を異にするが、官僚「官員さん」の横行時代を現出した。日清、日露の両戦・・・ 宮本百合子 「今日の文学の鳥瞰図」
・・・プロレタリア文学は、勤労者の広汎な生活を文学にうつしつつ、同時に、大衆そのものが内蔵している文化と文学との新たな発展力、その開花を前途に期待した。作家と読者との関係は単に需要者・供給者の関係ではない肉親的交流において見られたのであった。・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
出典:青空文庫