・・・明治初頭十年十五年間の社会事情を真面目に観察すれば、日本の開化期文化・文学の複雑な胎生を見逃すことは出来ない。旧時代の文学的伝統は仮名垣魯文その他の戯作者の生きかたに伝え嗣がれており、維新と開化とに対して、江戸っ子であり旧時代の文化の代表で・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・わせると、散文は自己自身と他からの働きかけとの間の調整を求めるのを法則としていて、従って外的ないろいろな力に追いまわされもするものであるが、歌・詩は、自己の均衡の上に築かれていて自身の諸部分のあいだに諧和を求めるもの、従って歌は人間の救われ・・・ 宮本百合子 「作品のよろこび」
・・・芸術、そして文学は、そもそもの本質が、人生を愛し、評価し、人一人の生命と創造力の大なる開花を歴史のうちに期待するものなのだから。 世界観について 文学作品の批評が、ごく素朴な、自然発生的な主観の印象に立って行わ・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・とにかく、第一節において、ジイドは、心を傾けてソヴェトに開花している日常生活の幸福そうな明るさ、行き届いた文化的施設、どこの国においてよりも深く強くヒューマニティーを感じさせる人間と人間との接触、共感、民衆が享有している非常に長い青年期の高・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・したがって、その文化は、ゆたかな人々のために世界で最高の開花をとげていますが、貧しい人々、失業者たちの生活は、やはりじゃがいもを買うことに苦心しています。日本の資本主義の歴史的な弱さの上に、アメリカの文化の――いわゆる高度なる文化の――面だ・・・ 宮本百合子 「質問へのお答え」
・・・たちは、生産・政治・文化建設の面におけるプロレタリアートの勝利の確立とともに、ほうはいと高まった大衆のうちのプロレタリア化の可能性=文学においてはプロレタリア文学創造のより豊富な可能性を、十分指導し、開花させるために、すでに従来の組織ではこ・・・ 宮本百合子 「社会主義リアリズムの問題について」
・・・津田真道が「開化を進る方法を論ず」、加藤弘之「国体新論」、西周は「知説」のほかに「致知啓蒙」、福沢諭吉は「文明論の概略」、祖父は明治八年に「泰西史鑑」というものを独・物的爾著から重訳して出している。 いずれも当時の進歩的学者であったし、・・・ 宮本百合子 「繻珍のズボン」
・・・ヒューマニズムという言葉をきいた時、誰の胸にも浮ぶのはヨーロッパ文化に於ける文芸復興時代のヒューマニズムの多彩な開花であろう。ルネッサンスは中世の思想と社会が人間に強制していた種々の軛からの人間性の解放を叫んで、社会文化の各方面に驚くべき躍・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ ルネッサンスはデスデモーナに、皮膚の色のちがうオセロを愛させる感情のひろがりをみとめたが、その愛を完成する知性までは開花させていない。ルネッサンス時代は文学作品ばかりでなく、絵画に彫刻に雄大な作品が花と咲き満ちた時期であった。けれども・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・当時日進月歩であった新日本の足どりにおくれて手足まといとならない範囲に開化して、しかも過去の自由民権時代の女流のように男女平等論などを論ぜず内助の功をあげることを終生のよろこびとする、そのような女を、明治の日本は理想の娘、妻、母として描き出・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
出典:青空文庫