・・・ 中野好夫は『新日本文学』十二月号に、一九四九年を次のように回顧している。「過去一年をふりかえってみて私としてもっとも強い関心を感じることは、個々の法令、個々の規則ということよりも、それらの禁圧的法令、規則の脊後を通じて一貫している・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ 大人は子供の世界を心に描くとき、現在大人として日々の生活に疲れもし痛みもしている情緒の未だ無垢なりし故郷として、何となく回顧風に、優しい思い出の調べを添えて感じる癖がある。子供のための本をかく人は、同じ女性でも、小説を書く女性より、所・・・ 宮本百合子 「子供のためには」
・・・ 姙娠五ヵ月以上、十ヵ月未満の赤坊のある婦人は決して解雇しないという労働法を、会社は適用するでしょうか? 恋愛が自由でないのはバカにもわかる。愉快な恋愛を健康にするには、この資本主義の社会とは違った経済的基礎、制度、ものの考えかたがいる・・・ 宮本百合子 「ゴルフ・パンツははいていまい」
・・・そして労働法は生後十ヵ月までの子をもつ母親の解雇、姙娠五ヵ月以上の女の解雇をごくごくやむを得ない場合以外は厳禁している。 小学校、工場附属技術学校、いずれも国庫および職業組合の負担で、プロレタリアートの児童のために開放されている。 ・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・ 例えば労働者を解雇する場合、工場の生産の低減をしなくてはならぬ已を得ない場合、労働者が工場に対して窃盗を働いた場合、それから三ヵ月以上収監された場合、そういうものは無断で解雇してもよい。そうでなければ労働者同意の上、或る場合は次の職業・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
九月一日の夕刊に、物々しい防空演習の写真と一緒に市電整理案が発表された。全従業員一万八百人を全部解雇、改めて新規定の四割減給で採用し、八百五十万円を浮かして、永年にたまった八百万円の赤字を一気にうめようと云う整理案である。・・・ 宮本百合子 「電車の見えない電車通り」
・・・ 近頃のけばけばしさ、というと普通にはすぐ懐古風に配色だの縞だのが思い浮べられているけれども、そういう逆もどりも実際には不可能だと思う。 しぶい色、縞は、昔の日本の室内で近い目の前で見られるにふさわしいのだが、今日の東京の建築物では・・・ 宮本百合子 「働くために」
・・・晩年の母は、懐古的になるとともに祖父西村茂樹の現代にあっては保守というべき側面ばかりを影響された。 母の一生は女ながらいかにも活々と、多彩に、明治八年頃から今日に至る略六十年の間に日本の中流の経験した経済的な条件、精神的な推移の歴史・・・ 宮本百合子 「母」
・・・彼女は早速今迄の家庭教師を解雇し、自分で子供達に本を読んでやり、散歩に伴をし、遊び仲間に入ろうとしました。が、近頃の子供は何と云う変ったことでしょう。 ロザリーは、九ツの男の子が、物語に対して「そんなことは嘘ですよ。詰らない! 春、夏・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
・・・その社としては懐古的な意味をもった催しであったが、主幹に当る人はそのテーブル・スピーチで今日社が何十人かの人々を養って行くことが出来るのも偏に前任者某氏の功績である云々と述べた。今日に当って某誌が日本の文化を擁護しなければならぬ義務の増大し・・・ 宮本百合子 「微妙な人間的交錯」
出典:青空文庫