・・・出産仕度金は月給の半額まで支給され、ソヴェト同盟の労働法は姙娠五ヵ月以上の婦人労働者と、生れて十ヵ月未満の赤坊を抱えた婦人労働者は、殆んど絶対に解雇することは許されない。 こないだまでの世の中とは何という違いだろう! 支配人の顔なんぞ見・・・ 宮本百合子 「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」
・・・後者は、前方への進展の見とおしとその社会的なよりどころを見失った文学の懐古的態度として現れたのであったが、時代の急激なテムポは、微温的な懐古調を、昨今は、花見る人の長刀的こわもてのものにし、古典文学で今日の文学を黙せしめようとするが如き不自・・・ 宮本百合子 「文学上の復古的提唱に対して」
・・・畑陸相が登壇すると、場内が俄にザワザワ、ガサガサいう音響に充たされて、畑陸相の開口を暫らく制する有様である。上から見下すと、只一様に白紙のように議席に置かれていたのは、参考地図であった。米内首相は降壇のときわざわざケースに納めて戻って来た眼・・・ 宮本百合子 「待呆け議会風景」
・・・ 牧歌的な懐古の趣ばかりがここに感じられないところに、今日の現実の性質があるのだと思う。〔一九四〇年三月〕 宮本百合子 「昔を今に」
・・・ソヴェト同盟の労働法が、姙娠五ヵ月以上の婦人労働者、生後十ヵ月以内の赤坊をもつ婦人労働者を、殆ど絶対に解雇することを禁じている安心さと、何という相違だろう! 若い医員は、先へ立ってドンドン半地下室へ降りて行った。さっぱりしたコンクリート・・・ 宮本百合子 「モスクワ日記から」
・・・終戦直後、大きな軍需会社は即日職員の解雇をした。そして、一人当りいくらかの纏まった金を、解雇手当として与えた。軍人は部隊の解散に伴って沢山の資材を背負い出しもしたし、金も貰った。特に将校階級がトラックを使ってまで、軍の物資を分け取りしたこと・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・その翌日、彼女は病院から解雇された。出て行くとき彼女は長い廊下を見送る看護婦たちにとりまかれながら、いささかの羞ずかしさのために顔を染めてはいたものの、傲然とした足つきで出ていった、それは丁度、長い酷使と粗食との生活に対して反抗した模範を示・・・ 横光利一 「花園の思想」
・・・最早懐疑と凝視と涕涙と懐古とは赦されぬであろう。その各自の熱情に従って、その美しき叡智と純情とに従って、もしも其爆発力の表現手段が分裂したとしたならば、それは明日の文学の祝福すべき一大文運であらねばならぬ。そうして、明日の文学は分裂するであ・・・ 横光利一 「黙示のページ」
・・・もう少し年を取ったらどうなるかわかりませんが、今のところでは回顧するたびごとにただ後悔に心臓を噛まれるばかりです。 しかし私は青春と名のつく時期を低く評価してはおりません。恐らくそれは、人生の最も大きい危機の一つであるだけに、また人生の・・・ 和辻哲郎 「すべての芽を培え」
・・・従ってまた人類の有史以来数千年の業績をも、しみじみと自己の問題として回顧せしめる。この事がもしある芸術的天才の心裡に起こったならば、そこに何らか雄大な結晶物が生まれないではいないだろう。 考えてみると、古来の芸術的傑作には戦争に刺激せら・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
出典:青空文庫