・・・ たとえば海陸軍においても、軍艦に乗りて海上に戦い、馬に跨て兵隊を指揮するは、真に軍人の事にして、身みずから軍法に明らかにして実地の経験ある者に非ざれば、この任に堪えず。されども海陸軍、必ずしも軍人のみをもって支配すべからず。軍律の裁判・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・伝え聞く、箱館の五稜郭開城のとき、総督榎本氏より部下に内意を伝えて共に降参せんことを勧告せしに、一部分の人はこれを聞て大に怒り、元来今回の挙は戦勝を期したるにあらず、ただ武門の習として一死以て二百五十年の恩に報るのみ、総督もし生を欲せば出で・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・こんやは新らしいポラーノの広場の開場式だ。」「それでは酒を呑まずに水を呑むぅとやるか。」その年よりが云いました。 みんなはどっとわらいました。「よしやろう。表へ出て。おいミーロ、おれが水を汲んでくるから、きみは戸棚からコップをだ・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・この燈火の煌いた華やかな宴席には、もう何年も前に名をきき知っているばかりでなく、幾つかの絵を展覧会場で見ていて、自分なりに其々にうけ入れているような大家たちも席をつらねている。 司会者の何か特別な意図がふくまれていたのであろうか、 ・・・ 宮本百合子 「或る画家の祝宴」
・・・芝浦から日覆いをかけた発動和船。海上にポツリと浮いたお台場、青草、太陽に照っている休息所の小さなテント。此方ではカフェー・パリスと赤旗がひらひらしている。市民の遊覧、ルウソーの絵の感じであった。陽気で愛らし。 溺死人の黒い頭、肩。人間の・・・ 宮本百合子 「狐の姐さん」
・・・それとも穢れをきらうというようなことに関してのしきたりで、女は海上に働かないことになっているのだろうか。男と女とがうちまじって一つ船にのって働いて、もし時化で漂流でもした場合におこって来る複雑な問題も考えて、さけられているというわけなのだろ・・・ 宮本百合子 「漁村の婦人の生活」
・・・ 婦人画家 茶の間で、壁のところへ一枚の油絵をよせかけて、火鉢のところからそれを眺めながら、画中のドックに入っている船と後方の丘との距離が明瞭でないとか、遠くの海上の島がもう一寸物足りないとか素人評をやっている・・・ 宮本百合子 「くちなし」
・・・大阪ではひどい雨に会って、天王寺の会場へゆく道々傘をもたない私共は濡れて歩いたのであったが、稲子さんは、宿をかしてくれた友達のマントを頭からかぶって、足袋にはねをあげまいと努力しながら、いそいで歩いた。私は洋服を着て、その不自由そうな様子を・・・ 宮本百合子 「窪川稲子のこと」
・・・婦人民主クラブが第一回の創立大会をひらいた。会場である共立講堂へニュースのライトが輝いたらしく、派手な空気は、わたしをおどろかした。婦人民主クラブの成立に関係をもった幾人かの婦人が話をした。加藤シズエ夫人もその一人だった。もうそのころ立候補・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・ 一九三〇年の七月、全同盟共産党第十六回大会の会場で「ラップ」代表キルションが行った報告中には、既に全然新しい層から生れて来た作家=労農通信員、コムソモール出身=が何人か数えあげられた。 ソヴェト同盟の生産とともに高められたプロレタ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
出典:青空文庫