・・・二課業がすんでキッコがうちへ帰るときは雨はすっかり晴れていました。あちこちの木がみなきれいに光り山は群青でまぶしい泣き笑いのように見えたのでした。けれどもキッコは大へんに心もちがふさいでいました。慶助はあんまりいばってい・・・ 宮沢賢治 「みじかい木ぺん」
・・・ ラジオの国民歌謡は、男は国の守りとして外へ出てゆき、家を守り家業にいそしむこそ女であるもののつとめであるとくりかえし歌っている。岡本かの子さんのような芸術家は、和歌に同じような思想をうたい、女の家居の情を描いておられる。だが、現実の今・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・ ある洋服屋の娘さんの書いた文章には、まだ年期の切れない弟子の一人が出征したので、その留守の間は娘さんも家業を手つだっていたところその弟子が無事帰還した。まずこれでよいと一安心する間もなく、その弟子が年期をそのまま東京へ出てしまった。そ・・・ 宮本百合子 「女の自分」
・・・ この三四年来は、さぞ漁村からも働き盛りの男たちが留守になっているのだろうが、あとの稼業や生計はどんな工合に営まれているだろうかと考えられる。農家では、女と子供の働きが非常に動員された。ある場所では機械や牛馬の力も加えて、男のいないあと・・・ 宮本百合子 「漁村の婦人の生活」
・・・ ――あのひとたち、一日何時間ずつ課業があるんです? ――四時間から、日によっては六時間です。 ブラブラ明るい階段の方へ向って歩きながら、答えた。 ――あの人たち、みんなここの寄宿舎に暮しているんです。汽車賃を貰って来て、無・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・あまりの貧しさ、貧しさ極った無一物から漂然とした従来の中国庶民の自由さとちがって、春桃は、稼業を見つけ出す賢さ、男二人をそれぞれに役立ててゆく才能、小さい店もひろげてゆく実際能力をもつ女であるからこその「誰のものでもない」こころもちを通して・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・僅か一時間の課業ではあったが、講義の一回毎に、頭が蓄る知識で重くなるようにさえ感じた。窮屈な文部省の綱目に支配された女学校の課程の中で、教育だけは先生の自由にまかされていたと見え、飢え饑えていた若い知識慾が、始めて満される泉を見出したのであ・・・ 宮本百合子 「弟子の心」
・・・ もう、一生彼の人には会う機会も、便りをやる所もなくなってしまった様な気がして、彼あ云う家業が家業だけに余計思い患われる。 そんな事を思いながら、本を読んで居たけれ共、何にも気が入らないので、何だか落つかないいやな空合を窓からぼんや・・・ 宮本百合子 「曇天」
・・・一日おき位に、放課後一時間か二時間いのこり、算術や国語の特別課業を受ける時も、一つの読み間違い、一つの式の立て違いが、何だか、みな遠い彼方で、入学試験の間違いと連絡していそうな気がする。 私は、他の多くの友達と一緒に受持の先生がいられな・・・ 宮本百合子 「入学試験前後」
・・・そして、そういうお母さんがたが、やっぱり勇気をもって、稼業を励みながらたまには、そんな気のくつろいだ時ももたれるかと思えば、何とも云えない気がしますね。あなたがたは、家にいる間実によく働いてお母さんにもよくしてお上げになったから、それもどん・・・ 宮本百合子 「二人の弟たちへのたより」
出典:青空文庫