・・・と、わざと調戯うように声をかけますと、お敏は急に顔を赤らめて、「まあ私、折角いらしって下すった御礼も申し上げないで――ほんとうによく御出で下さいました。」と、それでも不安らしく答えるのです。そこで新蔵も気がかりになって、あの石河岸へ来るまで・・・ 芥川竜之介 「妖婆」
・・・二人が少しも隔意なき得心上の相談であったのだけれど、僕の方から言い出したばかりに、民子は妙に鬱ぎ込んで、まるで元気がなくなり、悄然としているのである。それを見ると僕もまたたまらなく気の毒になる。感情の一進一退はこんな風にもつれつつ危くなるの・・・ 伊藤左千夫 「野菊の墓」
・・・世間或は之を見て婦人の嫉妬など言う者もあらんなれども、凡俗の評論取るに足らず、男子の獣行を恣にせしむるは男子その者の罪に止まらず、延いて一家の不和不味と為り、兄弟姉妹相互の隔意と為り、其獣行翁の死後には単に子孫に病質を遺して其身体を虚弱なら・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・ べこべこ三味線 お座つき香に迷うがすんだら 都々逸 下諏訪らしい広告 御待合開業 今回各位の御同情により二月十八日より 御待合並にうどん店 開業致し親切丁寧を旨として大勉強仕候間御引立の・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
・・・いつもの正面の場処から、母が、隔意のある表情で、「いらっしゃい」と軽く頭を下げられる。 自分は居難い心持がした。彼女が何を思って居られるのか判らず、周囲の人も亦、知ったような、判らないような、何処となく不自然な雰囲気を以てかこん・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
・・・ 御待合開業 今回各位の御同情により三月一日より 御待合並にうどん店 開業いたし親切丁寧を旨として大勉強仕候間御引立の程願上候 うどん/きそば御待合入仙・・・ 宮本百合子 「町の展望」
出典:青空文庫