・・・発句すなわち今の俳句はやはり連歌時代からこれらの枝の節々を飾る花実のごときものであった。後に俳諧から分岐した雑俳の枝頭には川柳が芽を吹いた。 連歌から俳諧への流路には幾多の複雑な曲折があったようである。優雅と滑稽、貴族的なものと平民的な・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・十中八九は実際おそらくなんらの目立った果実を結ぶことなく歴史の闇に葬られるかもしれない。しかしそういうものはいくらあっても、決して科学の進歩を阻害する心配はないのである。科学という霊妙な有機体は自分に不用なものを自然に清算し排泄して、ただ有・・・ 寺田寅彦 「量的と質的と統計的と」
・・・死んで花実が咲こかいな、苦しむも恋だって。本統にうまいことを言ッたもんさね。だもの、誰がすき好んで、死ぬ馬鹿があるもんかね。名山さん、千鳥さん、お前さんなんぞに借りてる物なんか、ふんで死ぬような吉里じゃアないからね、安心してえておくんなさい・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・樹の枝はみな生物のように垂れてその美しい果実を王子たちに奉った。 これを見たものみな身の毛もよだち大地も感じて三べんふるえたと云うのだ。いま私らはこの実をとることができない。けれどももしヴェーッサンタラ大王のように大へんに徳のある人なら・・・ 宮沢賢治 「学者アラムハラドの見た着物」
・・・ベースピラミッド カンデラブルまたパルメット エーベンタールことにも二つの コルドンと棚の仕立に いたりしにひかりのごとく 降り来し天の果実を いかにせん。みさかえはあれ かがやきのあめとしめりの く・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
・・・われらは田園の風と光の中からつややかな果実や、青い蔬菜といっしょにこれらの心象スケッチを世間に提供するものである。注文の多い料理店はその十二巻のセリーズの中の第一冊でまずその古風な童話としての形式と地方色とをもって類集したものであっ・・・ 宮沢賢治 「『注文の多い料理店』新刊案内」
・・・このことは過日の非日委員会法に反対して、いわゆる政治的でない二十七名の教授連が声明書を出したことでもはっきり示されています。その人たちは、市民的自由、学問と言論と思想の自由をファシズムから守るためにはあえて支配権力の政治に対抗する政治力を発・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・自由党、進歩党の首領たちは、過日「婦人に得票をくわれた」と表現した。自党から立った婦人代議士に対して、これら保守の党は、どんな責任と義務とを感じているのだろうか。今のところ、まるでその実在性を念頭においてさえもいないように見える。保守の党が・・・ 宮本百合子 「一票の教訓」
・・・実る自己完成の果実は、千万人の喉をうるおわす宙を蓄えて居る、と。 宮本百合子 「大いなるもの」
過日『仰日』ならびに『檜の影』会からお手紙を頂き重ねてあなたからのお手紙拝見いたしました。『仰日』を拝見して、短歌については素人ですが一つ二つ感想を申上ます。 わたくしは一人の読者として『仰日』におさめられている多くの・・・ 宮本百合子 「歌集『仰日』の著者に」
出典:青空文庫