・・・決議は根本において、発表の時機によって、その価値を左右されない確乎たる党派性と科学的究明との上に立ってなされたものである。同志小林の功績は、実にプロレタリア文学運動におけるその如き党派性、その如き科学性の確立のために、決議の作成へまで発展的・・・ 宮本百合子 「前進のために」
・・・ 絶え間なく戦争の危険がふりまかれ、人々の心に不安が巣くっていれば、戦争の恐怖がどういうものであるかを経験している国々の人民は、自分たちの日々の建設に、確固とした永続性を見出しにくい動揺した心理で暮すことになる。この生活も、いつどうなる・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・前衛としての知識人の負う艱苦、犠牲は運動の退潮期には猛烈であるから、一般的敗北の跡の検討ということは、冷静に、確乎性をもって歴史的な眼から行われ難い。船が難破しかかったとき、最後にその船を転覆させて自分たちの命もすてさせてしまうのは、舷の傾・・・ 宮本百合子 「全体主義への吟味」
・・・その時分、私は内的に苦しんでいて、その訪問も、愚痴を聞いて欲しいというまでに折れてはいなかったが、自分の芸術の上に確乎としている人に接したい欲求があったと見えます。 少し極りわるく感じながら玄関で案内を乞うたら、芥川さんは何処かへ旅行中・・・ 宮本百合子 「田端の坂」
・・・プロレタリア文学の作品が多様化すればするほど、ますます確乎とした階級的基準にたって実にいきいきと、明快に、健康に、それぞれの作品の社会的意味を階級の歴史の発展との連関において積極的にせんめいする批評の必要が増して来ていることを痛感するのであ・・・ 宮本百合子 「近頃の感想」
・・・半ば眠り半ばは確乎と覚醒している厖大なアジアの一国、中国で、資本主義以前にありながら、しかも、目下の急速な世界情勢の動きにつれて、豊饒な民族資源が才能さえも含めていきなり最も民主的方法で開発される十分の可能をもっているという事実は、私たちに・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・ ――「欠陥の基本的なものは組織的活動の微弱なこと、連絡がプロレタリア作家乃至革命的作家団体間に強く行われないで、むしろ各個人間に行われて来たことである。国際局の機関雑誌『外国文学時報』も亦大きな欠点をもっている。これは直に改革して世界・・・ 宮本百合子 「ニッポン三週間」
・・・強制貯金をさせるという気はないという意味にとれる答えが、いくつかの答えの中にあったが、その朝、貯蓄組合加入の紙が市役所のビラと一緒に町会からまわって来て、各戸最低五十銭以上の貯蓄をすすめられているものには、では、あれはちがうのかしら、と思わ・・・ 宮本百合子 「待呆け議会風景」
・・・それは、予備条件として在来の社会機構から生じた各個人間の極く平俗な生存競争の必然を認めつつ、だが、窮極のところ、人生の意義というものは、人間対人間の目前の勝敗にあるのではない、「持って生れたものを誤らないように進めてゆく、それが修業」であり・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・細い目のちょいと下がった目尻に、嘲笑的な微笑を湛えて、幅広く広げた口を囲むように、左右の頬に大きい括弧に似た、深い皺を寄せている。 綾小路はまだ饒舌る。「そんなに僕の顔ばかし見給うな。心中大いに僕を軽侮しているのだろう。好いじゃないか。・・・ 森鴎外 「かのように」
出典:青空文庫