・・・静かな、闊やかな、充実した自然がかっちり日本的な木枠に嵌められて由子の前にある。全く、杉森をのせ、カーバイト会社の屋根の一部を見せ、遠く遠くとひろがる田舎の風景は、手近いところで一本、ぐっと廊下の角柱で画される為、却って奥ゆきと魅力とを増し・・・ 宮本百合子 「毛の指環」
厳寒で、全市は真白だ。屋根。屋根。その上のアンテナ。すべて凍って白い。大気は、かっちり燦いて市街をとりかこんだ。モスクワ第一大学の建物は黄色だ。 我々は、古本屋の半地下室から出た。『戦争と平和』の絵入本二冊十五ルーブリ・・・ 宮本百合子 「シナーニ書店のベンチ」
・・・翼の合わせめがかっちりとした根つけ細工のようだ。 時々三対目の後脚をいかにもかゆそうにこすり合わせた、見て居て、自分もくすぐったくなる程〔欄外に〕 よく見るとうるしの刷目のようなむらさえ頭や翅にあり、一寸緑色がぼやけて居るあ・・・ 宮本百合子 「一九二七年八月より」
・・・まだかっちりと若々しくて、黒い耀いた眼ざしをしているそのひとは、指にたこのようなものがあって、ちゃんとした装などのときは袂のかげにそっちの手を置くようにしているのであった。 ところが鳩麦だけの飲みようが私に分らない。売った店にも判らない・・・ 宮本百合子 「鼠と鳩麦」
・・・早くのびた樹の姿は、いかにも粗製の感じで、かっちりとした印象を与えない。また実際に早く衰える場合も多い。それに対して、同じ大きさになるのに二倍三倍の年数をかけた樹は、枝ぶりに念の入った感じがあるばかりでなく、かえって耐久的なのである。そうい・・・ 和辻哲郎 「京の四季」
・・・甲冑の材料である鉄板の堅い感じ、その鉄板をつぎ合わせている鋲の、いかにもかっちりとして並んでいる感じ、そういう感じまでがかなりはっきりと出ているのである。それはこの鉄の武器が、人体などよりもはるかに強い関心の対象であったことを示すものであっ・・・ 和辻哲郎 「人物埴輪の眼」
出典:青空文庫