・・・ 隅々の糸がほつれている色も分らない古巾着を内懐から出して、鍵を入れると、「一銭や二銭のお金じゃあなし、遣ろうと云えば、一生恩に被る人が、ウザウザいうほどあります。ただ湧いて来るお金じゃあなしね」とつぶやきながら、うなだれている・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・ 鼠がものを齧る音は聴くのはいやだ。ずっと先、上落合の方の家にたった一人で暮していたときは、鼠のあばれようがひどくて、天井の上で何か齧っている物音が、無人さに対して動物の悪意を示してさえいるようで、猛々しかった。一々その鼠を追っぱらって・・・ 宮本百合子 「鼠と鳩麦」
・・・理化学研究所長大河内正敏の計画は、軍需産業を都会に集中させて置くと被害を被るから、各地方に分散させようという表面の目的の外に、田舎の村の中に小さな作業所をどっさり拵えて、非常に簡単な分業を組織し、農村の婦人達がどんなに未熟練であっても、すぐ・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫