・・・ある仏蘭西のジェスウイットによれば、天性奸智に富んだ釈迦は、支那各地を遊歴しながら、阿弥陀と称する仏の道を説いた。その後また日本の国へも、やはり同じ道を教に来た。釈迦の説いた教によれば、我々人間の霊魂は、その罪の軽重深浅に従い、あるいは小鳥・・・ 芥川竜之介 「おぎん」
・・・彼らの両方――いわゆる自然主義者もまたいわゆる非自然主義者も、早くからこの矛盾をある程度までは感知していたにかかわらず、ともにその「自然主義」という名を最初からあまりにオオソライズして考えていたために、この矛盾を根柢まで深く解剖し、検覈する・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・然るに文人に強うるに依然清貧なる隠者生活を以てし文人をして死したる思想の木乃伊たらしめんとする如き世間の圧迫に対しては余り感知せざる如く、蝸牛の殻に安んじて小ニヒリズムや小ヘドニズムを歌って而して独り自ら高しとしておる。一部の人士は今の文人・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・道徳価値の把握は知的作用によらず、情緒的な直覚によって価値感知されるのである。これがシェーラーのいわゆる情緒的直覚主義の立場である。シェーラーはさらに価値の等級を直観するアプリオリの等級感があるといい、ある意欲対象である価値が、他の意欲のそ・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・それが少年に感知されたからであろう、少年も平和で、そして感謝に充ちた安らかな顔をして、竿を挙げてこちらへやって来た。はじめてこの時少年の面貌風采の全幅を目にして見ると、先刻からこの少年に対して自分の抱いていた感想は全く誤っていて、この少年も・・・ 幸田露伴 「蘆声」
・・・であることを感知する。おそらく私が以上の三人の訪問者から自分の先入主となった物の考え方の間違って居たことを教えられたように、「死」もまた思いもよらないことを私に教えるかも知れない。……・・・ 島崎藤村 「三人の訪問者」
・・・ しかし、織田君の哀しさを、私はたいていの人よりも、はるかに深く感知していたつもりであった。 はじめて彼と銀座で逢い、「なんてまあ哀しい男だろう」と思い、私も、つらくてかなわなかった。彼の行く手には、死の壁以外に何も無いのが、ありあ・・・ 太宰治 「織田君の死」
・・・ いつか、柳田という、れいの抜け目の無い、自分で自分の顔の表情を鏡を見なくても常に的確に感知できると誇称している友人、兼、編輯部長に連れられて、新橋駅のすぐ近くの川端に建って在るおでん屋へ飲みに行きました。そこもまた、屋台には違い無いの・・・ 太宰治 「女類」
・・・そうしてそれをやっている間に同時にその地震の強弱程度が直観的にかなり明瞭に感知されるから、たいていの場合にはすっかり安心して落着いていられるのである。関東地震の起った瞬間に私は上野の二科会展覧会場の喫茶店で某画伯と話をしていた。初期微動があ・・・ 寺田寅彦 「家庭の人へ」
・・・読者の頭脳次第では、かなりつまらぬ科学記事からでもいろいろな重大問題の暗示を感知し発見し摂取し発展させることもしばしばあるのである。一方ではまた浅薄な概括的論述を羅列した通俗科学的読み物がはなはだしく読者をあやまるという場合もしばしばあるで・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
出典:青空文庫