・・・ ところが現在の仮想的事件の場合においては、象が人間の言う事を聞かないから人間がおこった、それから象がおこったのであっても、その人間が仲間の人間にこの事件の顛末を話して聞かす時には、きっと象がおこった事実の記述のほうに念が入り過ぎて、つ・・・ 寺田寅彦 「解かれた象」
・・・そうなればもはや人間というものは宇宙の片隅に忘れられてしまって、少数の観念と方則が独り幅を利かすようになって来るのである。しかもこの大系統は結局人間の産物であって人間現在の知識の範囲内にのみ行わるるものである。ポアンカレーは「方則は不変なり・・・ 寺田寅彦 「物質とエネルギー」
・・・さる無駄口に暇潰さんより手取疾く清元と常磐津とを語り較べて聞かすが可し。其人聾にあらざるよりは、手を拍ってナルといわんは必定。是れ必竟するに清元常磐津直接に聞手の感情の下に働き、其人の感動を喚起し、斯くて人の扶助を待たずして自ら能く説明すれ・・・ 二葉亭四迷 「小説総論」
・・・と説明して聞かすと、虚子は始めて合点した顔附で「それで分ったが、さっきから馬の肛門のようだと思うて見て居たのだ」というた。○僕の国に坊主町という淋しい町があってそこに浅井先生という漢学の先生があった。その先生の処へ本読みに行く一人の・・・ 正岡子規 「画」
出典:青空文庫