・・・画工、その事には心付かず、立停まりて嬉戯する小児等をみまわす。 よく遊んでるな、ああ、羨しい。どうだ。皆、面白いか。小児等、彼の様子を見て忍笑す。中に、糸を手繰りたる一人。小児三 ああ、面白かったの。画工 (・・・ 泉鏡花 「紅玉」
・・・とにかく彼らが嬉戯するような表情をするのは日なたのなかばかりである。それに彼らは窓が明いている間は日なたのなかから一歩も出ようとはしない。日が翳るまで、移ってゆく日なたのなかで遊んでいるのである。虻や蜂があんなにも溌剌と飛び廻っている外気の・・・ 梶井基次郎 「冬の蠅」
・・・小児の群れの嬉戯せるにあいぬ。馬高くいななくを聞きぬ。されど一村寂然たり。われは古き物語の村に入るがごとき心地せり。若者一個庭前にて何事をかなしつつあるを見る。礫多き路に沿いたる井戸の傍らに少女あり。水枯れし小川の岸に幾株の老梅並び樹てり、・・・ 国木田独歩 「小春」
・・・昨日までの遊びの友達からは遽かに遠のいて、多勢の友達が先生達と縄飛びに鞠投げに嬉戯するさまを運動場の隅にさびしく眺めつくした。 それから一週間ばかり後になって、漸く袖子はあたりまえのからだに帰ることが出来た。溢れて来るものは、すべて清い・・・ 島崎藤村 「伸び支度」
・・・ずこ宴の歌も 消えうせつ刃音拍車の 音もなし ああ移り行く世の姿 ああ移り行く世の姿されど正しき 若人の心は永久に 冷むるなし勉めの日にも 嬉戯のつどいの日にも 輝きつ古・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・一方より見れば、生れて何らの人生の罪悪にも汚れず、何らの人生の悲哀をも知らず、ただ日々嬉戯して、最後に父母の膝を枕として死んでいったと思えば、非常に美くしい感じがする、花束を散らしたような詩的一生であったとも思われる。たとえ多くの人に記憶せ・・・ 西田幾多郎 「我が子の死」
出典:青空文庫