・・・彼等の作品が、商品化されたばかりでなく、彼等自身が、既に資本主義下の寄食によって、機械化されたからである。 趣味や、知識の問題でない。今や、眼前の事実に対して右か、左か、芸術家も畢竟、一個の人間である限り、社会の一人である限り、態度を決・・・ 小川未明 「芸術は革命的精神に醗酵す」
・・・六 然し現在のキリスト教なるものは、多くは世界の資本家の涙金から同盟を作り、大会を催す――換言すれば、経済的に資本主義者に寄食しているものだ。何処に彼のガラリヤの湖畔を彷徨したいわゆる乞食哲学者の面影があるか。それどころか英米の・・・ 小川未明 「反キリスト教運動」
・・・なんやこう、むく犬の尾が顔にあたったみたいで、気色がわるうてわるうてかないませんのですわ。それに、えらい焼餅やきですの。私も嫉妬しますけど、あの人のは、もっとえげつないんです」 顔の筋肉一つ動かさずに言った。 妙な夫婦もあるものだ。・・・ 織田作之助 「秋深き」
・・・「流血の検挙をよそに闇煙草は依然梅田新道にその涼しい顔をそろへてをり、昨日もまた今日もあの路地を、この街角で演じられた検挙の乱闘を怖れる気色もなく、ピースやコロナが飛ぶやうに売れて行く。地元曾根崎署の取締りを嘲笑するやうに、今日もま・・・ 織田作之助 「大阪の憂鬱」
・・・そして疲れはてては咽喉や胸腹に刃物を当てる発作的な恐怖に戦きながら、夜明けごろから気色の悪い次ぎの睡りに落ちこんだ。自然の草木ほどにも威勢よく延びて行くという子供らの生命力を目の当り見せられても、讃美の念は起らず、苦痛であった。六・・・ 葛西善蔵 「贋物」
・・・――然しそれがどちらの旗色であれ、他人のたてたどんな旗色にも動かされる人間でないことを彼は段々証して来ております。普段にぼんやりとしかわからなかった人間の性格と云うものがこう云うときに際してこそその輪郭をはっきりあらわすものだということを私・・・ 梶井基次郎 「橡の花」
・・・傲然として鼻の先にあしらうごとき綱雄の仕打ちには、幾たびか心を傷つけられながらも、人慣れたる身はさりげなく打ち笑えど、綱雄はさらに取り合う気色もなく、光代、お前に買って来た土産があるが、何だと思う。当てて見んか。と見向きもやらず。 善平・・・ 川上眉山 「書記官」
・・・すると母、やはり気がとがめるかして、少し気色を更え、音がカンを帯びて、「なに私どもの処に下宿している方は曹長様ばかりだから、日曜だって平常だってそんなに変らないよ。でもね、日曜は兵が遊びに来るし、それに矢張上に立てば酒位飲まして返すから・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・日蓮は「天の御気色を拝見し奉るに、以ての外に此の国を睨みさせ給ふか。今年は一定寄せぬと覚ふ」と大胆にいいきった。平ノ左衛門尉はさすがに一言も発せず、不興の面持であった。 しかるに果して十月にこの予言は的中したのであった。 彼はこの断・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・脚の丈夫な、かゝとの高い女靴をはいて歩く時の恰好が、活溌で気色がよかった。日本の女には見られない生々さがあった。 彼等は、ロシア人の家へ遊びに行くひまが、偸まなければできなかった。勿論偽札はなかった。しかし、何故、彼等ばかりが進んでパル・・・ 黒島伝治 「氷河」
出典:青空文庫