・・・あらゆる既存の人生観はわが知識の前にその信仰価を失う。呪うべきはわが知識であるとも思うが、しかたがない。何らかの威力が迫って来て、私のこの知識を征服してくれたら、私は始めて信じ得るの幸福に入るであろう。 されば現下の私は一定の人生観論を・・・ 島村抱月 「序に代えて人生観上の自然主義を論ず」
・・・られたる事項にそむきし事ただの一度も無之、月々に割り当てられたる債券は率先して購入仕り、また八幡宮に於ける毎月八日の武運長久の祈願には汝等と共に必ず参加申上候わずや、何を以てか我を注意人物となす、名誉毀損なり、そもそも老婆心の忠告とは古来、・・・ 太宰治 「花吹雪」
・・・ところが、不思議なことに、その作品のモデルだとみずから名乗って作品のその醜さが当事者たちの名誉を毀損する、法律に訴えると、ジャーナリズムに大きな声をあげた男女の作家があらわれた。 他人にわからない文壇生棲間のもつれでもあってのことだろう・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・これは侮辱、名誉毀損、恐喝、恐迫等の犯罪を構成する。適当な機会に断固たる処置をとりたい。数十名の弁護人ならびに三分の二の傍聴人により法廷を制圧している等の諸点をあげて示威した。 裁判長「法廷を制圧しているとはどんな意味か。」 川口検・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・「文学者や思想家が、既存の社会通念に無批判に服従することでのみ仕事をすべきだとする考えは、人類に進歩があるべきであるならば、有害な考えである。既存の社会通念を批評し訂正するという思想家や芸術家の働きが、現在の文化を形成して来たのである」と。・・・ 宮本百合子 「人間性・政治・文学(1)」
・・・そうしたってプロテスタント教がその教義史と寺院史とで毀損せられないと同じ事で、祖先崇拝の教義や機関も、特にそのために危害を受ける筈はない。これだけの事を完成するのは、極て容易だと思うと、もうその平明な、小ざっぱりした記載を目の前に見るような・・・ 森鴎外 「かのように」
出典:青空文庫