・・・ヨーロッパの文化の基底をなして来たフランスの個性の評価、「指導的な個人たち」が、第二次世界大戦へ向って動く各国間の矛盾の解決に対して、無力であったばかりか、個々人の影響力というものについてロマンが抱いていた善良であるが悲しい程非現実な期待の・・・ 宮本百合子 「よもの眺め」
・・・ 其上、夏の休暇には遠方へ旅行する次手に、家も変える計画が以前から既定して居るのである。 然し、泰子の気分は、左様云う reasoning ではなおらなかった。 不快な心的状態は、鼠算に不快な考を産む。第一、当分は移れないと定っ・・・ 宮本百合子 「われらの家」
・・・魚家の妓数人が度々ある旗亭から呼ばれた。客は宰相令狐綯の家の公子で令狐※ 参照 其一 魚玄機三水小牘 南部新書太平広記 北夢瑣言続談助 唐才子伝唐詩紀事 ・・・ 森鴎外 「魚玄機」
・・・その道を論じまた教えうるには、大宝令に規定しているように、それぞれ人がある。政治はこの道を実現せんとする努力である。国家はこの道或いは理念の実現でなくてはならない。我々の国家が或る権力の代表者を主権者とせずして、道の代表者を主権者とすること・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
・・・しかし、希少性だけがその規定者ではなかった。どんなに珍しい種類の毒茸が見いだされたとしても、それは毒茸であるがゆえに非価値的なものであった。では何が茸の価値とその区別とを子供に知らしめたのであろうか。子供の価値感がそれを直接に感得したのであ・・・ 和辻哲郎 「茸狩り」
・・・しかし自分の現在が自分の未来をどう規定するかについては、実際は無知である。それはただ自分の智慧が臆測の光を投げ込むに過ぎない底知れぬ深淵である。しかしその深淵のすみからすみまで行きわたっているある大いなる力と智慧との存在する事を、そうしてそ・・・ 和辻哲郎 「停車場で感じたこと」
・・・ここにおいて内なる美の真実と虚偽とが、深と浅とが、一切の美術の価値を規定する。建築は君によれば装飾美術である。が、この装飾美術にもまた真実と虚偽は存在している。その関係は自然を写した美術に実と偽の存在すると異ならない。君は自然主義の作家の製・・・ 和辻哲郎 「『劉生画集及芸術観』について」
出典:青空文庫