・・・されば日蓮貧道の身と生まれて、父母の孝養心に足らず、国恩を報ずべき力なし。今度頸を法華経に奉って、その功徳を父母に回向し、其の余をば弟子檀那等にはぶくべし」といった、また左衛ノ尉の悲嘆に乱れるのを叱って、「不覚の殿原かな。是程の喜び・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・何をおいても、人間性の霊的・美的教養の書物は逸することを恐れて、より高く、より美しきものをと求めて読んでおかなければならないのである。 学術的、社会・経済的ないし職業専門的の書物にあっても、つとめて勤勉して読むことは、非常に必要である。・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・そして岩波君が志操ある書店主として立派に成功したとき、孝養を思っても母はもう世を去っていた。 ガンジーの母は、ガンジーがロンドンに勉強しに行こうとするとき、インドの母らしい敬虔な心から、わが子がヨーロッパの悪風に染むことを恐れてなかなか・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・潭水湖の電気事業工事のために、一日十五六時間働かして僅かに七銭か八銭しか賃銀を与えず、蕃人に労働を強要したのだ。そしてその電気事業のために、蕃人の家屋や耕作地を没収しようとしたのだ。蕃人の生活は極端に脅かされた。そこで、 蕃人たちは昨年十月・・・ 黒島伝治 「入営する青年たちは何をなすべきか」
・・・でも、出来ても出来なくても無理やりに弁償を強要したかった。不服でむか/\してやりきれなかった。そういう激しい感情を林へ引いて行かれる橇を見て自ら慰めるよりほか、彼等には道がなかった。彼等と一緒に兵タイに取られ、入営の小豆飯を食い、二年兵にな・・・ 黒島伝治 「氷河」
・・・心境未だし、デッサン不正確なり、甘し、ひとり合点なり、文章粗雑、きめ荒し、生活無し、不潔なり、不遜なり、教養なし、思想不鮮明なり、俗の野心つよし、にせものなり、誇張多し、精神軽佻浮薄なり、自己陶酔に過ぎず、衒気、おっちょこちょい、気障なり、・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・しかも、その奥さんたるや、若くて、高貴で、教養のゆたからしい絶世の美人。 さすがの青木さんも、泣きべそ以外、てが無かった。「女房の髪をね、一つ、いじってやって下さい。」と田島は調子に乗り、完全にとどめを刺そうとする。「銀座にも、どこ・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・ のちに到り、所謂青年将校と組んで、イヤな、無教養の、不吉な、変態革命を兇暴に遂行した人の中に、あのひとも混っていたような気がしてならぬ。 同志たちは次々と投獄せられた。ほとんど全部、投獄せられた。 中国を相手の戦争は継続してい・・・ 太宰治 「苦悩の年鑑」
・・・ カール・ヒルティ先生の曰く、諸君は教養ある学生であるから、酒を飲んでも乱に陥らない。故に無害である。否、時には健康上有益である。しかし、諸君を真似て飲む中学生、又は労働者たちは自らを制することが出来ぬため、酒に溺れ、その為に身を亡す危険が・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・船橋に移ってからは町の医院に行き、自分の不眠と中毒症状を訴えて、その薬品を強要した。のちには、その気の弱い町医者に無理矢理、証明書を書かせて、町の薬屋から直接に薬品を購入した。気が附くと、私は陰惨な中毒患者になっていた。たちまち、金につまっ・・・ 太宰治 「東京八景」
出典:青空文庫