・・・医師に強要して、モルヒネを用う。 ひるさがり眼がさめて、青葉のひかり、心もとなく、かなしかった。丈夫になろうと思いました。 月 日。 恥かしくて恥かしくてたまらぬことの、そのまんまんなかを、家人は、むぞうさに、言い刺した。飛・・・ 太宰治 「悶悶日記」
・・・すなわち理法によって他の承諾を強要する。民族的反感からは信用したくない人でも、論理の前には屈伏しなければならない事を知っているから。」こう云ったニーチェのにがにがしい言葉が今更に強く吾々の耳に響くように思われる。 彼の学校成績はあまりよ・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・演習なり実習なりである講義を理解する下地の出来たものは自由に入れてやって、普通学の素養などは強要しない。ことに彼の経験では有為な徹底的な人間は往々一方に偏する傾向があるというのである。従って中等学校では生徒がある特殊な専門に入るだけの素養が・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・それにはイデオロギーの教養に無関係に世界の人間の心を捕えるものがなければならない。そうしてそれはロシア人にもフランス人にも日本人にも共通に通用するものでなければならない。そうだとすれば、それはまた必ずしも映画以来はじめて発明されたものではな・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・ロシア映画で教養も何もない農夫が最も光ったスターとして現われ、アメリカ映画でも土人のほうが白人の映画俳優の下っぱなどより比較にならぬほどいい芝居をして見せるのも同様な現象である。自然を背景とした芝居では人間もやはり自然な芝居をしなければつり・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・もっともそういう無理解は、何も新聞記者だけとは限らず、一般世間の相当教養ある人士の間にも共通であって、その根源は結局日本における科学的普通教育に非常な欠陥のあることを物語るものであって、何も新聞記者諸氏のみの罪ではないのである。しかし、せめ・・・ 寺田寅彦 「ジャーナリズム雑感」
・・・それにもかかわらずそういう無意味な言い現わし方をする人は相当な教養のある人にも少なくないようである。「盆大の月」とか、「たらいほどなおてんとう様」とかいうのも学問的にはナンセンスである。盆やたらいの距離を指定しなければ客観的には意味を成さな・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・この場合には自分のわずかな時間と労力の節約のために他の同乗者のおのおのから数十秒ずつの時間を強要し消費することになるのである。これも遠慮したほうがよさそうに思われる。 しかし、昇降機のほうから言えば何階で止まるも止まらぬのもたいした動力・・・ 寺田寅彦 「蒸発皿」
・・・真逆に墓表とは見えずまた墓地でもないのを見るとなんでもこれは其処で情夫に殺された女か何かの供養に立てたのではあるまいかなど凄涼な感に打たれて其処を去り、館の裏手へ廻ると坂の上に三十くらいの女と十歳くらいの女の子とが枯枝を拾うていたからこれに・・・ 寺田寅彦 「根岸庵を訪う記」
・・・などと言って無理やりに何かしゃべる事を強要される。それでも頑強に応じないと、あとから立つ人の演説の中で槍玉にあげられる。迷惑な事である。 あれはともかくもやはり西洋人のまねから起こった事には相違ない。不幸にして西洋の社交界へ顔を出した事・・・ 寺田寅彦 「路傍の草」
出典:青空文庫