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・・・洋行も僕のように無理をしないで、気楽にした。君は今まで葛藤の繰延をしていたのだ。僕の五六年前に解決した事を、君は今解決して、好きなように歴史を書くが好いじゃないか。已むを得んじゃないか。」「しかし僕はそんな葛藤を起さずに遣っていかれる筈・・・
森鴎外
「かのように」
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・・・徳蔵おじはモウ年が寄って、故郷を離れる事が出来ないので、七年という実に面白い気楽な生涯をそこで送り、極おだやかに往生を遂る時に、僕をよんで、これからは兼て望の通り、船乗りになっても好といいました。僕は望が叶たんだから、嬉しいことは嬉しいけれ・・・
若松賤子
「忘れ形見」