・・・ 昔の生活の輪は女にとってきびしくとも小さかったから、その頃の三十三の女のひとたちは、自分の身一つの厄除けを家運長久とともに、神へでも願をかけ、何かの禁厭をして、その年を平安に送ることに心がけたのだろう。 暮になったとき柔和な顔を忙・・・ 宮本百合子 「小鈴」
・・・「禁煙」。この室に寝台はない。 だが、レーニンが住んでいた室という写真の他のどれを見ても、机がきっとあると同時にきっと粗末な寝台がうつっている、彼がそれだけ、いつも倹約に生活していたことの証拠だろう。 ――元、この室にいろんなものが・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・ 彼那大きなものを持ち出し、此処でも之丈の事をしたのに、どうして家の者の目が覚めなかったのか、 どこかに禁厭がしてないかとか、ゆうべ誰かが干物を外へ出して置いたまんまだったのではないか。 斯うやって考えて見ると、どうしても三時頃・・・ 宮本百合子 「盗難」
・・・ 六 重吉の左脚の筋炎は、一週間ほどして段々納まりはじめた。日当りのいい八畳に臥ている重吉の湿布をとりかえながら、「こんどの足いたは、可哀想だったけれど、わるいばかりでもなかったわねえ」 ひろ子が、云っ・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・その際松竹より提出せし金円は著作権法改正運動に使用する条件を附して劇作家協会に寄附する。 一九二六年。劇作家協会と小説家協会とを合同せしめ、新に文芸家協会を作ることに尽力す。この年、四十歳になったこの作者によって、初めての長篇小説「生き・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
出典:青空文庫