・・・生命がけで、描いて文部省の展覧会で、平つくばって、可いか、洋服の膝を膨らまして膝行ってな、いい図じゃないぜ、審査所のお玄関で頓首再拝と仕った奴を、紙鉄砲で、ポンと撥ねられて、ぎゃふんとまいった。それでさえ怒り得ないで、悄々と杖に縋って背負っ・・・ 泉鏡花 「紅玉」
・・・ 吉弥はちょっとぎゃふんとしたようであったが、いずまいを直して、「聴いてたの?」と、きまりが悪い様子。「聴いてたどころか、隣りの座敷で見ていたも同前だい!」「あたい、何も田島さんを好いてやしない、わ」「もう、好く好かない・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・ ぎゃふんと参った。 私は帰途、新宿の酒の店、二、三軒に立寄り、夜おそく帰宅した。大隅君は、もう寝ていた。「小坂さんとこへ行って来たか。」「行って来た。」「いい家庭だろう?」「いい家庭だ。」「ありがたく思え。」・・・ 太宰治 「佳日」
・・・ 魚容は、ぎゃふんとまいって、やぶれかぶれになり、「よし、行こう。漢陽に行こう。連れて行ってくれ。逝者は斯の如き夫、昼夜を舎てず。」てれ隠しに、甚だ唐突な詩句を誦して、あははは、と自らを嘲った。「まいりますか。」竹青はいそいそし・・・ 太宰治 「竹青」
出典:青空文庫