・・・西、両国、東、小柳と呼ぶ呼出し奴から行司までを皆一人で勤め、それから西東の相撲の手を代り代りに使い分け、果は真裸体のままでズドンと土の上に転る。しかしこれは間もなく警察から裸体になる事を禁じられて、それなり縁日には来なくなったらしい。・・・ 永井荷風 「伝通院」
・・・どうでも今日は行かんすかの一句と、歌麿が『青楼年中行事』の一画面とを対照するものは、容易にわたくしの解説に左袒するであろう。 わたくしはまた更に為永春水の小説『辰巳園』に、丹次郎が久しく別れていたその情婦仇吉を深川のかくれ家にたずね、旧・・・ 永井荷風 「雪の日」
・・・『国のあゆみ』『民主主義』読本に対する監視と批判は、決して新学期に際してだけの季節的行事であってはならないと思います。今日二・二六の事件を戦争を欲しなかった青年将校の行動であるとか、農民大衆の窮乏にふるいたった青年将校たちの行動であるとかい・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・華やかな人間の行事にも無関心な動物の自然さで、白と黒との立派な斑牛はのんびり鼻面をもたげ主人にそびらを向け、生きていることが気持よいという風に汀に向って水を飲んでいる。 視角の高い画面の構成は、全体が闊達で、自在なこころの動きがただよっ・・・ 宮本百合子 「あられ笹」
・・・ K市の年中行事として行われる「共同視察」参観者の列席の前で、佐田は児童との初歩的な階級性を帯びた質問応答によって彼の発見しつつある新しい教育法を示威しようとしたことから、ついに反動教育と決裂する。あやまれといわれたことに対して、体じゅ・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・ 燃料がどこの家でも不如意になって来ていて、風呂たきは注意ぶかい一家の行事の一つとなった。 いろいろのものが焚かれるようになって来た。物置はそのために隅々までしらべられ、もう十七年も前、駒沢の家から外国旅行に出るとき、遑しい引越し荷・・・ 宮本百合子 「折たく柴」
・・・ 菊人形が国技館で開かれるようになってからは、見にゆく人の層も変ったらしいけれども、団子坂の菊人形と云われたことは、上野へ文展を見にゆく種類の人にも、そう縁の遠くない秋の行事の一つだったのではなかろうか。千駄木町に住んでいた漱石の作品の・・・ 宮本百合子 「菊人形」
・・・ これまで婦人デーというと、社会主義の思想をもつ一部の婦人たちの間で行われる行事であるかのように考えられて来ました。そして、またそのように考えさせるために、昨年なども、いろいろの宣伝が行われました。三月八日に婦人デーをするなどということ・・・ 宮本百合子 「国際婦人デーへのメッセージ」
・・・ あの記事によって私共は日常行事を知り得た。衣類や食物や、行動の時間割などについて。紙数の制限があった故であろうが、余りそれだけすぎた。例えばそのような細部に於ても女囚が月経中まし紙と称して多少余計な浅草紙をいただかせて頂く、ということ・・・ 宮本百合子 「是は現実的な感想」
・・・例えば中国の習俗では正月を迎えることは年中行事中、最も賑やからしい様子ですが、それなら中国の村人、市民がこれまでの歴史のなかで常に安穏な月日を経て来ているかと云えば、事実は反対のものとして語られていると思います。日本の私たちは、あながちその・・・ 宮本百合子 「歳々是好年」
出典:青空文庫