・・・あらすべきとて、貧き中にもおもひわづらはるるあまり、からうじて井ほらせけるにいときよき水あふれ出づ、さくもてくみとらるべきばかりおほうあるぞいとうれしき、いつばかりなりけむ□「しほならであさなゆふなに汲む水もからき世なりとぬらす袖かな」と、・・・ 正岡子規 「曙覧の歌」
・・・水を汲む女に聞けば旅亭三軒ありといわるるに喜びて一つの旅亭をおとずれて一夜の宿を乞うにこよいはお宿叶わずという。次の旅亭に行けば旅人多くして今一人をだに入るる余地なしという。力なくなく次の旅店に至れば行燈に木賃と書きたる筆の跡さえ肉痩せて頼・・・ 正岡子規 「旅の旅の旅」
・・・三郎は少し困ったように両手をうしろへ組むと向こう側の土手のほうへ職員室の前を通って歩きだしました。 その時風がざあっと吹いて来て土手の草はざわざわ波になり、運動場のまん中でさあっと塵があがり、それが玄関の前まで行くと、きりきりとまわって・・・ 宮沢賢治 「風の又三郎」
・・・兵士伍を組む。大将「前列二歩前へおいっ。偶数一歩前へおいっ。」大将「よろしいか。これから生産体操をはじめる。第一果樹整枝法、わかったか。三番。」兵卒三「わかりました。果樹整枝法であります。」大将「よろしい。果樹整・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
・・・ 彼の最も清浄な、涙組むまで美くしい心のあふれ出た「獄中記」の中で、「基督は、何者にもまして個人主義者の最高の位置を占むべき人である」と云うて居る。 真の箇人主義は斯くあるべきではないか。 私の云う霊を失った哀れなる亡霊の多・・・ 宮本百合子 「大いなるもの」
・・・「ちっとも朴突(なうまみのあるところがないと主婦はいやそうに云って居たけれども、添え手紙をもらって医者に話をきいて来た男の様子は、皆が可哀そうがって、涙組むほど、しおれて心配げに変って見えた。 急にざわめきたった家中は、・・・ 宮本百合子 「黒馬車」
・・・ 中野さんが全力をつくして対象に引組むことでそういう部分を内面的にも発展させ切ってしまうための本気な努力を益々継続することを心から期待してやまない。 これらは作家の発展の途についての感想であるが、私はこの作品を読んで更にもう一つのこ・・・ 宮本百合子 「鼓舞さるべき仕事」
・・・普通の言葉でこれを云うと、横光氏の生活、思想態度は頭の中でだけ描かれ組立てられていて、現実の矛盾にとり組む芸術的リアリティーをもっていないから未しであるという意味なのである。 かかる有様で、プロレタリア文学運動の退潮後、文学論議は混迷し・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・作家が身一つで現実ととり組むというとき、その身一つがぎりぎりのところで結局わが身一つである以上、そのわが身を我れとどう見て扱っているのだろうかということも、身につまされて自然の心がかりとなって来る。これらは総て、求められている或るものを射よ・・・ 宮本百合子 「人生の共感」
・・・その階級の差別は極めてやかましく、たとえば、草ぶき小舎にすんでいるヒンドゥースの娘スンダーリは、自分の飲む水を、上の階級ブラマンのものたちが水を汲む泉から決して汲んではいけない。泉に近づいただけでもののしられ、なぐられる。小さい黒い男の子ウ・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
出典:青空文庫