・・・男のひとも家庭と妻との概念を変え、互に、愛し合う男と女とが生活に向ってスクラムを組む心持でなくては駄目と思います。〔一九三七年五月〕 宮本百合子 「働く婦人の結婚について」
・・・プレットニョフのすすめで科学にとり組む仕事をはじめた。小学教師の試験をうけるようにというのであった。 独習者の新鮮、真面目な努力で、どんなに若いゴーリキイが、この科学の克服に熱中したかということは想像される。そして、このむずかしい仕事の・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
・・・ 梶は、日本人の今日の常識にとってさえその真意を汲むに困難な独特日本の義理人情によって知性を否定する怪々な論を、フランス人に向ってくりかえしたのであった。なまじい梶の説明をきいたばかりに、一層フランス人の心で日本が分らなくなり、かくの如・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
・・・一つの国の人間が先ず列をつくることを教えられ、やがて自分たちで列をつくるようになり、追々自分たちの生活の実際の向上のために列を組むように成長してゆく過程は、実に多岐であり波瀾重畳であると思う。ひとくちに人の列と云えばそれまでだが、列をなす一・・・ 宮本百合子 「列のこころ」
・・・さて潮を汲む場所に降り立ったが、これも汐の汲みようを知らない。心で心を励まして、ようよう杓をおろすや否や、波が杓を取って行った。 隣で汲んでいる女子が、手早く杓を拾って戻した。そしてこう言った。「汐はそれでは汲まれません。どれ汲みようを・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
出典:青空文庫