・・・地すべりの或るものでは地盤の運動は割合に緩徐で、すべっている地盤の上に建った家などぐらぐらしながらもそのままで運ばれて行く場合もある。従って岩などもぐらぐら動き、また互いに衝突しながら全体として移動する事もありそうである。そうい・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・ 最後の近くなったころ妻がそばへ行って呼ぶと、わずかにはい寄ろうとする努力を見せたが、もう首がぐらぐらしていた。次第に死の迫って来る事を知らせる息づかいは人間の場合に非常によく似ていた。 遺骸は有り合わせのうちでいちばんきれいなチョ・・・ 寺田寅彦 「備忘録」
・・・実際からだが妙にぐらぐらしたり、それをおさえようとすると肝心の手のほうががくりと動いたりするのである。 弱い神経と言ってしまえばそれまでの事かもしれないが、問題はこれが「笑い」の前奏として起こる点にある。 舌を出したり咽喉仏を引っ込・・・ 寺田寅彦 「笑い」
・・・今日もこの歯が一本ぐらぐらになってね、棕櫚縄を咬えるもんだから、稼業だから為方がないようなもんだけれど……。」 爺さんは植木屋の頭に使われて、其処此処の庭の手入れをしたり垣根を結えたりするのが仕事なのだ。それでも家には小金の貯えも少しは・・・ 徳田秋声 「躯」
・・・何でも家がぐらぐらして地面が波打って居やがらア。ゲー酒は百薬の長、憂の玉箒、ナンテ来らア。これでも妻君が内に待ってるだろうッちゅうので折詰を持って帰るなどは大ていな事じゃないよ。嚊大明神尤少々焼いて見るなぞは有難いな。女房の焼くほど亭主持て・・・ 正岡子規 「煩悶」
・・・ にわかにぱっと暗くなり、そこらの苔はぐらぐらゆれ、蟻の歩哨は夢中で頭をかかえました。眼をひらいてまた見ますと、あのまっ白な建物は、柱が折れてすっかり引っくり返っています。 蟻の子供らが両方から帰ってきました。「兵隊さん。かまわ・・・ 宮沢賢治 「ありときのこ」
・・・ 間もなく地面はぐらぐらとゆられ、そこらはばしゃばしゃくらくなり、象はやしきをとりまいた。グララアガア、グララアガア、その恐ろしいさわぎの中から、「今助けるから安心しろよ。」やさしい声もきこえてくる。「ありがとう。よく来てくれて・・・ 宮沢賢治 「オツベルと象」
・・・ 柏の木は足をぐらぐらしながらうたいました。「清作は、一等卒の服を着て 野原に行って、ぶどうをたくさんとってきた。 と斯うだ。だれかあとをつづけてくれ。」「ホウ、ホウ。」柏の木はみんなあらしのように、清作をひやかして叫び・・・ 宮沢賢治 「かしわばやしの夜」
・・・ 存在そのものが不確定のようなどっさりの男たち。ぐらぐらしていたり、ほかのものにとけこんでいて境がわからなかったり。○愛ということを一ぺんも云わない。○イタリアの情熱 自立の満足を一気にもとめる情熱情熱・・・ 宮本百合子 「無題(十三)」
・・・頭がぐらぐらしたり心が沸き立ったりするような目に逢うのも、生きがいがあるというものです。 しかしここには見のがすことのできない危険があります。それは歓楽に身をまかせることによって、他のさまざまな欲望を鈍らせることです。理想が何だ、道徳が・・・ 和辻哲郎 「すべての芽を培え」
出典:青空文庫