・・・私共は、そこに可怖い程なリアリストとして心理のモメントを捕えている作家バルザックの慧眼を感じるのであるが、さて、一旦慾にかかって腹をきめてからのシボの神さんの描写はどうであろうか? 私共は慾の女鬼として一貫性はありながら、何だか本当にされぬ・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・――が、ゴーリキイは、勤労者の若者の炯眼で見破った。労働者には似ていない。――ゴーリキイは銅器工に訊いた。「こちらに仕事はありませんか?」「こちらにゃ、あるが、お前の仕事は、ないね!」 若い縮毛の男はちらりとゴーリキイを見て、再・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・ゴーリキイは、社会の下積の者の炯眼で、一目でこれが真実の労働者ではないことを観破したのであった。 この端緒から、当時のカザンに於ける急進的な学生、インテリゲンツィアとゴーリキイとの接触がはじまった。ゴーリキイは、墓場の濃い灌木の茂みの中・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
出典:青空文庫