・・・という敬語的な冠が空にいるのであろうか。空は空として芸術的にまったく美しい。そして、科学的の正しさにおいても心配はない。花は花であるからこそいきいきとして目と心を奪う花なのではないだろうか。お花といわれると私たちは仏さんのお花という連想があ・・・ 宮本百合子 「子供のために書く母たち」
・・・もう警固のいる人間なんぞは来ないのである。ハイド・パアクのあっちこっちの門から子供連の夫婦――亭主は乳母車を押し妻は一人の子の手を引いていると云うような世帯じみた一団がぞろぞろ入って来る。警官音楽隊が音楽堂の中で軍楽を奏し始めた。肩の縫目の・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
・・・向陽院の周囲には幕を引き廻わして、歩卒が警護している。当主がみずから臨場して、まず先代の位牌に焼香し、ついで殉死者十九人の位牌に焼香する。それから殉死者遺族が許されて焼香する、同時に御紋附上下、同時服を拝領する。馬廻以上は長上下、徒士は半上・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・酒井家からは目附、下目附、足軽小頭に足軽を添えて、乗物に乗った二人と徒歩の文吉とを警固した。三人が筒井政憲の直の取調を受けて下がったのは戌の下刻であった。 十六日には筒井から再度の呼出が来た。酉の下刻に与力仁杉八右衛門の取調を受けて、口・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・ 同心らが三道具を突き立てて、いかめしく警固している庭に、拷問に用いる、あらゆる道具が並べられた。そこへ桂屋太郎兵衛の女房と五人の子供とを連れて、町年寄五人が来た。 尋問は女房から始められた。しかし名を問われ、年を問われた時に、かつ・・・ 森鴎外 「最後の一句」
出典:青空文庫