・・・女子供という表現は、人格以前としての軽侮を示すとともに、男の被保護的な存在と見られていたのであった。様々の面で復古趣味が見られるが、武人とその妻との関係も、今日では女の虚栄心が良人の行為の教唆者或は責任者として押し出されているというまことに・・・ 宮本百合子 「暮の街」
・・・ 自動車の厚い窓硝子の中から、ちらりと投げた視線に私の後姿を認めた富豪の愛らしい令嬢たちは、きっと、その刹那憐憫の交った軽侮を感じるだろう。彼女は女らしい自分流儀の直覚で、佇んでいる私の顔を正面から見たら、浅間しい程物慾しげな相貌を尖ら・・・ 宮本百合子 「小景」
・・・と、八月一日から十五日まで泉川検事と渡辺警部によって主として組合の「細胞会議について特に追求されたのであります。」そして逮捕の理由を追求する被告に対して「捜査官は容疑の点というものはタネだ。タネをあかすことはできない。」渡辺警部はしきりに若・・・ 宮本百合子 「それに偽りがないならば」
・・・ 作家と批評家との関係で、作家の側から屡々作家を育てるような批評がない、と文芸評論への軽侮のように表現されるけれども、それはそれだけが作家の心理の現実の全体ではないのではなかろうか。時を経ても、作家というものは自分の作品について心に刻み・・・ 宮本百合子 「遠い願い」
・・・作家は作家としての軽侮をもってこれに報いたのではあったが、経済・政治生活からの閉め出しは、客観的には紅葉を再び魯文に近いところへ押し戻した。俗輩どもを無視する作家としての誇りを、紅葉は自身の文学的感覚、教養に認めるしかなかったのであるが、ヨ・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・ 書物はこの境遇の中で、ゴーリキイに生きる力の源泉となったと同時に、限りない屈辱、軽侮、不安を蒙る原因となった。 製図師一家と同じ建物に住んでいる裁縫師のお洒落で怠者の妻からゴーリキイはこっそり本を借りた。それはフランスの通・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・に役に立つ警部であった。マクシム・ゴーリキイがカザンへ出て来た時分、十三ばかりであったシャポワロフは、ペトログラードの鉄道工場で朝七時から夜の十時半まで働いていた。給料は一日三十哥であった。工場の大人共はシャポワロフに「仕事を教えるかわりに・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・弟には忠利が三斎の三男に生まれたので、四男中務大輔立孝、五男刑部興孝、六男長岡式部寄之の三人がある。妹には稲葉一通に嫁した多羅姫、烏丸中納言光賢に嫁した万姫がある。この万姫の腹に生まれた禰々姫が忠利の嫡子光尚の奥方になって来るのである。目上・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・心中大いに僕を軽侮しているのだろう。好いじゃないか。君がロアで、僕がブッフォンか。ドイツ語でホオフナルと云うのだ。陛下の倡優を以て遇する所か。」 秀麿は覚えず噴き出した。「僕がそんな侮辱的な考をするものか。」「そんなら頭からけんつく・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・ 翌朝深淵の家へは医者が来たり、警部や巡査が来たりして、非常に雑した。夕方になって、布団を被せた吊台が舁き出された。 近所の人がどうしたのだろうと囁き合ったが、吊台の中の人は誰だか分からなかった。「いずれ号外が出ましょう」などと云う・・・ 森鴎外 「鼠坂」
出典:青空文庫