・・・しかしエロ・グロ出版物追放に関連して一部に出版取締法のようなものを再び日本につくろうとする動きがある。刑法は猥褻罪を規定しているから猥褻な本の取締りのためには、刑法のその条項を適宜に運用すべきである。もしかりに、漠然と公安を乱すおそれがある・・・ 宮本百合子 「今日の日本の文化問題」
・・・子供の弁当に大豆類を多くせよ、などの警報にひかれている。今日の日本の財政のまかない手である蔵相はラジオで放送して、銃後の民の心がけというものをとかれた。輸入品の節約をするように。国産品も節約をするように。だが酒、煙草、絹はどうか遠慮なくつか・・・ 宮本百合子 「祭日ならざる日々」
・・・エロ・グロ出版の排除という、誰も非難しようのないいとぐちによって、時事新報が誤って報道したように、万一その委員会が、刑法改正請願というような逸脱行為に導かれれば、それはとりもなおさず外見は民間の声というファシズムの手のひらで、民主的発言の口・・・ 宮本百合子 「三年たった今日」
・・・離婚の問題も婦人に不利であった条件を、男子と同等なものにしようとされていますし、刑法の上で、特に婦人にだけきびしかった姦通罪が消滅しました。 その中心にまだ天皇一族の特権をひろく認めているような憲法が、民主憲法といいきれないことは世界の・・・ 宮本百合子 「婦人大会にお集りの皆様へ」
・・・しかし女なんて不思議なものだ、民法で妻は無能力者になっている、女は結婚すると無能力者になってしまう。一家を賄っているのに、自分で家を建てることも、借金もできない。しかし刑法では女は十分能力あるものとしている。そうして子供を電車で潰されたとい・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
・・・例えば、民法第十四、五条、第七百八十八条、七百八十九条、八百一条、第八百十三条、最も注意すべき、刑法第百八十三条等に就いて何とかなさるべきであるとは感じてもそれ等を、自分達の問題として、適切に考究する代弁者を、女性は持ちません。 積極的・・・ 宮本百合子 「法律的独立人格の承認」
・・・ さて、明治初期の明るい、しかし未熟の男女平等の社会観念は、このようにして重く暗い日本の封建の土の上に根を下して、世界各国とは全く違った畸形な実を実らし始めたのであったが、この過程に民法と刑法とは、どんな工合に、婦人というものを扱っただ・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・不安が募るにつれ、非常警報器を引けと云う者まで出た。駅の構内に入る為めに、列車が暫く野っぱの真中で徐行し始めた時には、乗客は殆ど総立ちになった。何か異様が起った。今こそ危いと云う感が一同の胸を貫き、じっと場席にいたたまれなくさせたのだ。・・・ 宮本百合子 「私の覚え書」
・・・しかし自由意志があるかのように考えなくては、刑法が全部無意味になる。どんな哲学者も、近世になっては大低世界を相待に見て、絶待の存在しないことを認めてはいるが、それでも絶待があるかのように考えている。宗教でも、もうだいぶ古くシュライエルマッヘ・・・ 森鴎外 「かのように」
出典:青空文庫