・・・この天然と生命との機微を無視するキリスト教的、人道主義は、簡単に、一夫一婦の厳守を強制するのみで、その無理に気がつかない。それは夫婦というものが、人間という生きもののかりのきめであることを忘れるからである。この天与の性的要求の自由性と、人間・・・ 倉田百三 「愛の問題(夫婦愛)」
・・・ヒミツ絶対に厳守いたします。本名で御書き下さらば尚うれしく存じます。」「拝復。めくら草子の校正たしかにいただきました。御配慮恐入ります。只今校了をひかえ、何かといそがしくしております。いずれ。匆々。相馬閏二。」 月日。「近頃・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・締切は、かならず、厳守して頂きたいと存じます。甚だ手紙で失礼ですが、ぜひ御承諾下さって御執筆のほど懇願いたします。『秘中の秘』編輯部。」「ははあ、蝙蝠は、あれは、むかし鳥獣合戦の日に、あちこち裏切って、ずいぶん得して、のち、仕組みが・・・ 太宰治 「二十世紀旗手」
・・・あたりまえの、世間の戒律を、叡智に拠って厳守し、そうして、そのときこそは、見ていろ、殺人小説でも、それから、もっと恐ろしい小説を、論文を、思うがままに書きまくる。痛快だ。鴎外は、かしこいな。ちゃんとそいつを、知らぬふりして実行していた。私は・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・が別の一群を形づくって移動している。そうしてこの二群の間には常に若干の「尊敬の間隔」が厳守せられているかのように見えていた。ところがある日その神聖な規律を根底から破棄するような椿事の起こったのを偶然な機会で目撃することができた。いつものよう・・・ 寺田寅彦 「あひると猿」
・・・国家の元首として、堅実の向上心は、三十一文字に看取される。「浅緑り澄みわたりたる大空の広きをおのが心ともがな」。実に立派な御心がけである。諸君、我らはこの天皇陛下を有っていながら、たとえ親殺しの非望を企てた鬼子にもせよ、何故にその十二名だけ・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・軍律を厳守することでも、新兵を苛めることでも、田舎に帰って威張ることでも、すべてにおいて、原田重吉は模範的軍人だった。それ故にまた重吉は、他の同輩の何人よりも、無智的な本能の敵愾心で、チャンチャン坊主を憎悪していた。軍が平壌を包囲した時、彼・・・ 萩原朔太郎 「日清戦争異聞(原田重吉の夢)」
・・・世界の元首たちが、スターリングラード市民の名誉のためにおくりものをした品々と云えば、中性の剣とか古代の楯の模造品であり、その記念帳にかかれた文字は、「世界の英雄たち」とか「文明の防衛者達」という字である。スタインベックは、「これらはすべて極・・・ 宮本百合子 「心に疼く欲求がある」
・・・世界がもし、日本の天皇を本当の元首とよぶにふさわしい人格をもった大人であると認めたなら、法律上の責任はともかく、人道上の責任について糺弾しなかったことはありません。そのひと個人の上に悲劇をもとめる心持はないけれども、人民に対して一軍人ほどの・・・ 宮本百合子 「ファシズムは生きている」
・・・最高現金で五〇〇円という指示は、最低を現金で四五〇円厳守と規定した上でのことなのだろうか。その点について、政府は一言の説明をも加えていない。現金八〇〇円といっている人々が五〇〇円になっては困ると思うよりも、三五〇円しか現在貰っていない人が最・・・ 宮本百合子 「モラトリアム質疑」
出典:青空文庫