・・・文化の擁護、知識の健全性の防衛と云う一般の要求が能動精神の提唱される一つの社会的雰囲気として槓杆の役目をした。文学以前の問題として一般に感じられたこの槓杆の行動的なまた能動的な押し上げは、行動の目的のある一貫性にまたなければ現実性を与えられ・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・という作品の、ひねくれない、すなおな、おとなしいまともさに好感をもちました。今日の、あくどい、ジャーナリスティックになりきった、ごみっぽい作品の間に、阿川弘之という人の小説は、表現にしろ、なんでもないようだが、よく感じしめ、見つめた上でのあ・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・あるから、既にこれらの極めて具体的でありリアリスティックな諸研究のうちに十分とりあげられ、その先駆的な労作としての評価と発展的な批判とがなされているバッハオーフェンのこの「宗教をもって世界史の決定的な槓杆とした」研究も、未踏であった先史の中・・・ 宮本百合子 「先駆的な古典として」
・・・多分今年の始めか、昨年末であったか、同志林が、同志小林多喜二について「好漢小林多喜二も、どこかでなすべきことをやっているらしいから、これは大いによろしい」という意味のことを書いていたのを記憶するのは私一人ではなかろう。その同じ同志小林は、僅・・・ 宮本百合子 「前進のために」
・・・ 昭電事件その他の、世界的な規模をもった政界腐敗の事実を知った私どもは、元大臣、各官庁の高官、その人々の道義の頽廃を痛感するとともに、その人々の妻の道義感がどんなに麻痺していたかということについておどろく。収賄の内容が味噌、醤油から洋服・・・ 宮本百合子 「妻の道義」
・・・六月三日は動物愛護デーというので外国から来ている貴婦人たちが天皇の子息である少年を左右から囲んで「なごやかな交歓」をした写真が二面に出ている。その一面には三十一日来四十時間のとりしらべののち五年、七年、十年と重労働刑を判決申しわたされた八人・・・ 宮本百合子 「動物愛護デー」
・・・ 見かけよりはずっと奥ゆきの深い、いかにも桜木町辺の家らしい二階によったその集りには、非常に好感がもたれた。みんな、生活を知り、この社会で女が自立し、働くということの現実を知っている十五人足らずの人たちであった。なかには幼い娘を膝にのせ・・・ 宮本百合子 「図書館」
・・・『文芸』や『星座』が試みはじめたつつましやかな民衆の文化交驩の機会が、どうかまたすみやかに恢復されることを願っている。 女の作品 三篇に現われた異なる思想性 中本たか子氏は数年来、非常・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・ 此から幾年か居る、その家を貸すものに、唯利害関係からではなく、真個に人の世の生きるらしい友情と好感とを以て接して行けると云うことは、特別、家主、店子の関係に於て嬉しく思われたのである。 幾度も本郷、牛込、青山を往復し、家は、遂に我・・・ 宮本百合子 「又、家」
・・・ 没収した優秀な機械は、逓信省や大蔵省の役人が家へもって帰って据えつけたというような巷間の噂をきいたのも、それにつづく頃ではなかったろうか。 短波を禁止していた日本当局は、誰かが優良品を輸入するとすぐ、短波受信に必要な機械の部分品を・・・ 宮本百合子 「みのりを豊かに」
出典:青空文庫