・・・その呪文を述べたときに、君は、どのような顔つきをしたか、自ら称して、最高級、最低級の両意識家とやらの君が、百円の金銭のために、小生如き住所も身分も不明のものに、チンチンおあずけをする、そのときの表情を知りたく思うゆえ、このつぎにエッセエを、・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・対策を考究しようじゃないか。こまった。こまった。清水忠治。太宰先生、か。」 月日。「冠省。へんな話ですが、お金が必要なんじゃないですか? 二百八十円を限度として、東京朝日新聞よろず案内欄へ、ジュムゲジュムゲジュムゲのポンタン百円・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・堂々と、ためらわず、いわゆる高級品を選び出し、しかも、それは不思議なくらい優雅で、趣味のよい品物ばかりである。「いい加減に、やめてくれねえかなあ。」「ケチねえ。」「これから、また何か、食うんだろう?」「そうね、きょうは、我慢・・・ 太宰治 「グッド・バイ」
・・・こんな高級のウイスキイなら、それは当然の事だ、と私はとっさに合点して、「おい。」 と女房を呼び、「何か瓶を持って来てくれないか。」「いいえ、そうじゃないんです。」 と丸山君はあわて、「半分は今夜ここで二人で飲んで、半・・・ 太宰治 「酒の追憶」
・・・あるいは、高級な読者かも知れない。いずれにもせよ、笠井さんの名前ぐらいは、知っていそうな人たちである。そんな人たちのところへ、のこのこ出かけて行くのは、なんだか自分のろくでもない名前を売りつけるようで、面白くない。軽蔑されるにちがいない。慎・・・ 太宰治 「八十八夜」
・・・かしだね、僕にこれをサントリイウイスキイだと言って百五十円でゆずってくれた人は、だ、いいかね、そのひとは、この村の酒飲みのさる漁師だが、このひと自身も、これをサントリイウイスキイという名前の、まことに高級なる飲み物であると信じ切っているんだ・・・ 太宰治 「春の枯葉」
・・・つまり、高級なんだね。千両役者だからね。晴耕雨読。三度固辞して動かず。鴎は、あれは唖の鳥です。天を相手にせよ。ジッドは、お金持なんだろう? すべて、のらくら者の言い抜けである。私は、実際、恥かしい。苦しさも、へったくれもない。なぜ、書か・・・ 太宰治 「懶惰の歌留多」
・・・ この困難を避けるにはできるだけ言語を節約するという方針が生まれる、そうして字幕との妥協が講究される。 言葉の節約によって始めて発見されたおもしろい事実は、発声映画によって始めて完全に「沈黙」が表現されうるということであった。無声映・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・は比較にならぬほど複雑で深刻な事件とその心理とを題材として取扱っているから、もし成効すれば芸術的に高級なものになり得るはずであるが、同時にこれを娯楽のための映画として観ると、観たあとの気持はあまり健全な愉快なものではないはずである。「泉・・・ 寺田寅彦 「映画雑感6[#「6」はローマ数字、1-13-26]」
・・・なども、この大きな問題を考究するときの資料になるべきものであろう。 映画の世界の道徳は人間の世界の道徳とは必ずしも一致しなくてもよい。それは世界がちがうからである。しかし、一般の観客にはこの二つの世界の相違が明白に意識されていない。それ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
出典:青空文庫