・・・ 測量をする技師の一と組は、巻尺と、赤と白のペンキを交互に塗ったボンデンや、測量機等を携えて、その麦畑の中を行き来した。巻尺を引っ張り、三本の脚の上にのせた、望遠鏡のような測量機でペンキ塗りのボンデンをのぞき、地図に何かを書きつけて、叫・・・ 黒島伝治 「浮動する地価」
・・・ハッと気が付いて、「しまった。向後気をつけます、御免なさいまし」と叩頭したが、それから「片鐙の金八」という渾名を付けられたということである。これは、もとより片方しかなかった鐙を、深草で値を付けさせて置いて、捷径のまわり道をして同じその鐙を京・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・両者共に、相手の顔を意識せず、ソファに並んで坐って一つの煖炉の火を見つめながら、その火焔に向って交互に話し掛けるような形式を執るならば、諸君は、低能のマダムと三時間話し合っても、疲れる事は無いであろう。一度でも、顔を見合わせてはいけない。私・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・ などと、殆んど言葉にも何もなっていない小さい叫びが二人の口から交互に火花の如くぱっぱっと飛び出て、そのあいだ、眼にもとまらぬ早さでお金がそっちへ行ったりこっちへ来たりしていました。 じんどう! たしかに、おかみさんの口から、そ・・・ 太宰治 「たずねびと」
・・・たとえばいま、夏から秋にかけての私の服装に就いて言うならば、真夏は、白絣いちまい、それから涼しくなるにつれて、久留米絣の単衣と、銘仙の絣の単衣とを交互に着て外出する。家に在る時は、もっぱら丹前下の浴衣である。銘仙の絣の単衣は、家内の亡父の遺・・・ 太宰治 「服装に就いて」
・・・また同じ映画でダンス場における踊る主人公とこれをねらう悪漢との交互的律動的モンタージュもこれと全く同様である。これは二つの画面の接触作用によって観客の心に生ずる反応作用をその自然のリズムに従って誘導して行くのである。それでこのモンタージュの・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・たとえば紡績機械の流動のリズムと、雪解けの渓流のそれと、またもう一つ綿羊の大群の同じ流れとの交互映出のごときも、いくらかそうである。しかしこういう流動に、さらに貨物車の影がレールの上を走るところなどを重出して、結局何かしら莫大な運動量を持っ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・そういう田舎の名づけ親のおじさんの所へ遊びに行ったにんじんが、そこの幼いマチルドと婚礼ごっこをして牧場を練り歩く場面で、あひるや豚や牛などがフラッシで断続交互して現われ、おじさんの紙腔琴に合わせて伴奏をするところも呼吸がよく合って愉快である・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・それが実に呼吸をつく間もない短時間に交互錯綜してスクリーンの上に現滅するのである。 昨年見た「流行の王様」という映画にも黒白の駝鳥の羽団扇を持った踊り子が花弁の形に並んだのを高空から撮影したのがあり、同じような趣向は他にもいくらもあった・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・トランペットやトロンボンのはげしい爆音の林立が斜めに交互する槍の行列のような光線で示されるところもあったようである。 なんだかちっともわからないようで、しかしなんだか妙におもしろいものである。これと非常によく似たものが他にどこかにあるよ・・・ 寺田寅彦 「踊る線条」
出典:青空文庫