・・・ そんなにゴーゴリの泣き笑いとはちがう若く確信に満ちた哄笑が響いていながら、なお、この「黄金の仔牛」の読者が、しばしば、ああイリフ、ペトロフは、さすがゴーゴリの出た国の人間だけある、と思わざるを得ないというのも、実に意味ふかい実感だと思・・・ 宮本百合子 「音楽の民族性と諷刺」
・・・国人のためにもこの祭りの日と夜とを一きわ華やかにしつらえている贅沢な並木道通りからはずれ、暗いガードそばという場末街の祭の光景は、その片かげに大パリの現実的な濃い闇を添えているだけに、音楽も踊る群集も哄笑も、青や赤の色電燈の下で、実に強烈な・・・ 宮本百合子 「十四日祭の夜」
・・・変化物語、なかなか日本の土俗史的考証が細かで、一寸秋成じみた着想もあり、面白かった。 九時過Nさんと自動車で、自分林町へ廻る。離れにKと寝る。いろいろ話し、若い男がひとの妻君に対する心持など、感ずるところが多かった。 ――自分の妻君・・・ 宮本百合子 「狐の姐さん」
銀座の通りを歩いていたらば、一つの飾窓の前に人だかりがしている。近よって見るとそこには法廷に立っているお定の写真が掲げられているのであった。 数日前には、前陸軍工廠長官夫人の虚栄心が、良人の涜職問題をひきおこす動機とな・・・ 宮本百合子 「暮の街」
・・・一目そういう者の姿を見ると、ソヴェト同盟の大衆が謂わば階級的に用意している哄笑、嘲笑が火花のようにとび散るのだ。 成程、人形芝居をやったり、身振狂言をやったり、漫画の或る場合なんかは、こうなっていれば手っ取りばやい。一応直ぐわかる。だが・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・特に、世界とその一環としての日本の文学が、質的に大きい変転を行い、波瀾を経つつある最近の「十年間あまり、国文学研究の中道が、殆どすべて本文校訂とか稿本作成とか、考証とか、索引作成とかいう資料整理的の仕事それ自体を目的とする範囲を出なかったこ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・竹田氏は、その対策として「家庭などがもっと高尚な趣味の方に導くようにしてやって欲しい」と親切に忠告しておられたのであるが、その息子や娘が婚期をおくらさざるを得ないような経済状態にある今日の大多数の家庭で実際上どんなより高尚な趣味を養ってやり・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・吉原の公娼制度が廃止されることは、健全な結婚の可能性が我々の生きる今日の社会条件の中に増大されたのではなくて、多額納税議員をもその中から出している女郎屋の楼主たちが、昨今の情勢で営業税その他を課せられてまでの経営は不利と認めたからである。・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・ 彼女等は、思いのままに延びた美くしい四肢の所有者であり、朗らかな六月の微風に麗わしい髪を吹きなびかせながら哄笑する心の所有者でございます。 広大な地と、高燥な軽い空気は、自ずと住む人間の心を快活に致します。のみならず、婦人に向って・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ 砲兵工廠につとめている。一年半ばかりゴロゴロ そこの妻君の兄のところへうつる、 そこはい難いので夜だけ富士製紙のパルプをトラックにつんで運搬した、人足 そしたら内になり 足の拇指をつぶし紹介されて愛婦の封筒書きに入り居すわり六・・・ 宮本百合子 「SISIDO」
出典:青空文庫